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静岡県御前崎町

海・空・カモメ……緑の丘に白い灯台 海に囲まれ岬のある町、御前崎

青空をバックに白亜の灯台
カモメとカラスに歓迎され

 東経138度13分、北緯34度35分--いま静岡県最南端の地、御前崎灯台の展望台にいる。灯台は太平洋を分けるように突き出た岬の先端にあり、右手が遠州灘、左手が駿河湾である。

 眼前は見渡す限りの大海原。はるか遠くの水平線を目で追ってゆくと、地球の丸いことが確認できるようだ。波はまるで白い絹の布をなびかせるように、次から次へと海岸に打ち寄せていた。


灯台上から見下ろした太平洋
灯台上から見下ろした太平洋
 目を南に転ずると、美しい砂浜が延々と続いていた。富士のお山はどうなのか。せかされるようにして反対側に回ってみたが、こちらはモヤに霞んで望むことは難しそうだ。

 強い風に逆らって、カラスが目の前に飛んでくる。1羽、2羽、3羽……騒がしいほど鳴いて、観光客の目を楽しませくれる。こうして見ていると、いたずらカラスもここではなかなかの愛嬌者だ。

 灯台下の海岸へ降りた。潮の香りが鼻に心地よい。先ほど見たおだやかな海とは違い、大きな波が音を立てながら激しく海岸に押し寄せていた。

 波と戯れるようにして飛ぶカモメ、散策も楽しい平坦な水際の岩礁、高台に立つ白亜の灯台。明るい日差しの中で、訪れる人を詩人にしてくれる。御前崎は開放感いっぱいの観光地であった。

 

海岸に動と静、二つの顔
白羽海岸と御前崎海岸

 灯台から見た白羽海岸へ足を延ばした。遠州灘の荒波はまことに豪快だ。砕け散った波はしぶきとなり、いま来た灯台すらも霞んでよく見えない。

 この大きな波がサーファーたちをとりこにした。浜辺はサーフィンを楽しもうという若者で大にぎわい。そう言えば、毎年ここでウインドサーフィンの世界大会も開かれているそうである。

 白羽海岸を見た後、逆に駿河湾側の御前崎海岸に回ってみた。こちらはおだやかな海で、絶好の海水浴場である。にぎわう浜辺に目をやりながら、監視員の1人は「潮が引けば大きなハマグリも拾えますよ」と話してくれた。

 御前崎にいると波の音とももに、強い風がいつもついて回る。遠州のからっ風は日本一だそうで、海岸には大きな羽根を付けた風力発電装置もあった。散歩していたとき、畑の周りに背の高い草が植えられていたのを不思議に思ったものだが、それも風を防ぐための工夫だと後から教えられた。

 御前崎海岸一帯はいまマリンパークとして整備が進められている。その一つ「カツオの群れ」を意味する「なぶら館」は平成7年にできた観光物産会館。波と風をイメージして造ったというしゃれた建物は、御前崎の歴史や文化、あるいは観光、物産などを紹介するミニ博物館でもあった。

 夕闇が迫ってきて、白羽海岸に引き返した。ここで見る夕焼けがまたすばらしい。西の空が黄金色に染められ、雲は夕日を浴びてキラキラと光っている。日が海に落ちる雄大な光景は、確かに地元の人たちが口をそろえて自慢していただけのことはあった。

 

“いもじいさん”権右衛門とは
いまならさしずめ「村おこしの達人」

 「なぶら館」で興味を引いたのは“いもじいさん”大沢権右衛門の話だった。言われてみれば、町内に入って畑でサツマイモの葉っぱをよく見かけた。子供のころよく食べたイモセンベイがかつてはこの町の特産品でもあったのだ。

 明和3年(1766)の嵐の夜、薩摩の御用船・豊徳丸が御前崎沖で座礁した。救助に当たった権右衛門は礼金として差し出された20両を断り、代わりに3個のサツマイモをもらい受けた。これが遠州地方に根付いた、サツマイモの始まりと言われている。

 館内にはその栽培方法や加工技術などを紹介するコーナーが設けられていた。サツマイモを運んだビクやカゴ、イモを刻んだ「ペンペン」という道具、あるいは蒸したり干したりする工程の写真パネルなど。近くの海福寺には〃いもじいさんの碑〃もあるそうで、早速、行ってみることにした。

 碑は本堂脇に建てられていた。権右衛門の功績は広く知れ渡り、いまも毎年10月10日に追善供養が行われているとか。写真を撮っていると、ご住職が出てこられた。

 「いもじいさんの名を知らない人はこの町にはいないよ。ここは元来やせた土地で、薩摩の白砂台地とよく似ていたんでしょうな。ご存じのように御前崎沖は海の難所で、船の難破を待ち受けていた海賊まがいの者も多かったはず。それだけに権右衛門の行為は立派ですよ」

 お金なら使えば消える。たった3個のサツマイモがやせた大地を緑に変え、凶作や飢饉から多くの人々の命を救うことになった。まさに目先の利益におぼれるな、という教訓か。

 

ネコの恩返し、ネズミの改心
夕日の名所「夕日と風が見えるん台」

 探し求めていたそれは畑の中にぽつんとあった。「猫塚」と彫られた1メートルほどの石柱の上に、ちょっこんと乗せられたコンクリート製の愛らしいネコ。これが民話「恩義に報いたネコ」の主役である。

 昔、このあたりに遍照院という寺があった。ある朝、和尚が船の板子にすがりつき、沖へ流されてゆく小ネコを見つけた。哀れに思った和尚は漁師に頼んで拾い上げてもらい、連れ帰って寺で飼うことにした。

 「一度、お伊勢参りに行かないか」
 「残念だが、いまは行かれない。近く和尚の身に災難が降りかかるから、守ってあげなくてはならんでな」

 あれから10年後、隣家のネコとするこんな会話を寺の下男が耳にした。それから3日目の真夜中、本堂の天井裏で肝を冷やすようなドタンバタンという大きな物音がした。翌朝、和尚らが村人たちと調べて見ると2匹のネコが息絶え、その脇には犬ほどもある大ネズミが旅僧の衣を着けたまま血まみれになって死んでいた。この僧は数日前から和尚を食い殺そうと雲水に化け、寺に泊まり込んでいた大ネズミだったのである。

 ネコは手厚く葬られたが、大ネズミは海の近くに捨てられた。その夜、改心したネズミが村長の夢枕に現れ、海の守り神となることを誓って許しをこうた。村人たちはその地に埋葬して塚を作ったが、それがいまは「ねずみ塚広場」として潮騒遊歩道のポイントの一つになっているのだった。

 遊歩道を歩いてみた。海を望む眺望台があり、ツバキの小径があった。終点の展望台「夕日と風が見えるん台」に来ると、昨日、夕日を見たあたりにまで来ていた。♪おいらみ〜さきの〜、灯台守は〜……ベンチに腰を下ろして沖行く船を眺めていたら、そんな懐かしい歌が口もとからこぼれ出た。

 

[情報]御前崎町役場
〒421-0602 静岡県榛原郡御前崎町白羽617-1
TEL:0548-63-2001

 

 

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