マイタウン(MyTown)| 一人出版社&ネット古書店
マイタウン|東海地方(名古屋・愛知・岐阜・三重・静岡)の郷土史本(新本・古本)専門店マイタウン|東海地方(名古屋・愛知・岐阜・三重・静岡)の郷土史本(新本・古本)専門店

静岡県南伊豆町

景色よし、温泉よし、料理よし 潮の香漂う南国情緒いっぱいの町

伊豆半島最南端の町
優美な砂浜、弓ケ浜

 伊豆半島は太平洋にぐんと突き出し、東西の海を相模湾と駿河湾とに分けている。南伊豆町はまさに南も南、半島の最先端に位置する町だ。温暖な気候に恵まれてヤシやフェニックス、ソテツなどが見られ、2月には菜の花どころかサクラまで咲き始めるとか。

 この町へは山また山を越えてきた。が、町内は意外とも思えるほど平坦な地が多く、田畑の広がる田園風景も見受けられた。青々とした葉で畑を鮮やかに彩っていたのは香辛料などにされる熱帯原産のウコンだった。

 まずは南伊豆随一の海水浴場と言われる弓ケ浜へ。下田市寄り、青野川の河口近くにある。海岸は弓を強く張ったような形に湾曲しており、白砂青松のきれいな砂浜が約1キロにもわたって続いていた。

 左右の両端を岬に押さえられた格好で、太平洋の荒波もここではうそのよう。断崖絶壁の連なる伊豆半島ではめずらしく、周りは岩場や岩礁もない穏やかな光景だ。夏には多くの海水浴客でにぎわいを見せるそうだが、いまはカヌーを楽しむ若者4、5人がいるだけだった。

 ここではまた温泉も楽しめる。浜辺の周りには旅館や民宿も多く、松林に囲まれるようにして国民休暇村もあった。秋から冬にかけては町をあげて「伊勢エビまつり」が繰り広げられており、これら宿泊施設でもイセエビをはじめとする海の幸をふんだんに召し上がることができるそうである。

 弓ケ浜のもう一つの人気スポットが弓ケ浜温泉「みなと湯」。昔懐かしい下町の銭湯をイメージして造ったと言い、風格あふれる木造の立派な共同浴場だ。観光客や地元の人たちでにぎわいを見せていたが、ここはパスして次の目的地へ向かうことにした。

 

飛行の秘術持つ役行者
絶景、太平洋の大パノラマ

 伊豆最南端の石廊崎(いろうざき)では修験道の開祖、役行者(えんのぎょうじゃ)に出迎えられた。駐車場の片隅、灯台への上り口に杖と数珠を手にした大きな立像があった。役行者は呪文で世を惑わせたとして伊豆へ流されるが、ここでアシタバを発見し、アロエの薬効も説いたとか。

 岬は高さにして100メートルほどの断崖をなし、その向こうに白亜の灯台が見えた。周りの海には無数の奇岩や岩礁が点在しており、足元を荒波に洗われて白い波しぶきを上げている。なかでも一段と人目を引くのは役行者が飛行用の蓑(みの)を掛けたという「蓑掛け岩」で、海上に幾つもとがった岩の建ち並ぶ様は絵に書いたような美しさだった。

 先端をめざしてさらに進んだ。やがて岩山をくり抜くようにして石室(いろう)神社があった。航海の安全を願って役行者が石室権現を祭ったのに始まり、平安時代の神社名鑑『延喜式神名帳』にも記載されている由緒ある古社だとか。

 縁起物などを売る売店のおばさんは「霊験あらたかだよ。ここは海の難所でもあり、船乗りたちの厚い信仰を集めていた」と自慢げに話してくれた。そして、江戸に向かう途中に助けられたのに、帰りは素通りしようとした船がこの前まできたところ、とたんに動けなくなってしまったというエピソードも。

 岬の先端に立って太平洋を望むと、心なしか地球が丸く感じられてくる。前方左手に見えるのは神子元島で、その上に建てられた灯台もくっきりと見えた。はるか彼方には伊豆諸島も浮かんでいるはずだが、目をこらしてもわずかに大島と利島(としま)、新島の島影がほんのうっすらと望める程度だった。

 左手が先ほどから見えていた蓑掛け岩のある駿河湾側、右手がこれまた絶壁と岩礁の連なって〃奥石廊〃と呼ばれる駿河湾側。前者の海は秋の日差しを浴びて青く輝き、後者の方は逆光で深い藍色に染まっている。先ほど車を止めたところからは、これらの風景を海上から楽しむ遊覧船も出ていた。

 

湯煙上る下加茂温泉郷
南伊豆でも指折りの名湯

 下加茂温泉は青野川に沿うようにしてある。町のあちこちから湯煙が上がり、田園の中にあるのどかな温泉郷だ。役場などもここにあり、町の中心部でもある。

 この温泉は100度前後の高温で、そのうえ泉量も豊富だそうな。町内には温泉熱を利用して熱帯植物園があったり、東大の樹芸研究所や厚生省の薬用植物試験場などもあった。最初に訪れた弓ケ浜温泉も、実はここからの引き湯だそうである。


あちこちで湯煙上がる町の中心部
あちこちで湯煙上がる町の中心部
 青野川の河畔近くに日帰り温泉施設「銀の湯会館」があった。この日の予定も大方すんでおり、早速、ひと風呂浴びることにした。下町情緒を生かした「みなと湯」とは逆に、こちらはモダンな造りでスケールも大きい。

 湯船にゆったり身を沈めていると、一日の疲れがとれてゆくようだ。うたせ湯で肩などをもみほぐし、四季の湯でアロエの薬草湯を楽しみ、高温サウナで汗を絞り出した。ここの湯は塩分を多く含んでおり、これがまた出たあともぽかぽかとして心地よかった。

 今宵はこの町で泊まることになっている。町を散歩した後、宿に入るとそこは「温泉民宿」をうたっていた。奥さんにすすめられてまたひと風呂浴びることにしたが、こちらも露店風呂を独り占めにできてまたよかった。

 食卓には新鮮な海の幸が並んでいた。弓ケ浜の西にあった小稲(こいな)の入江は伊勢エビの繁殖地としても有名なところらしい。おいしい魚と酒にすっかり酔っ払い、知らないうちに寝入ってしまっていた。

 真夜中に目が覚めた。露天風呂に入ると漆黒の夜空に星がちりばめられ、あたりの草むらからは秋の終わりを告げるかのように弱々しい虫の音も聞こえてくる。幸せなひとときに「やっぱり温泉はいいなあ」とつぶやいていた。

 

「わ、かわいい」思わず歓声
野猿の楽園「波勝崎苑」

 西側の海岸も伊豆特有の変化に富んだ断崖が続く。ところどころにできた入江には小さな漁村が点在している。妻良(めら)、子浦(こうら)の集落を通って南伊豆道路「マーガレットライン」で波勝崎をめざした。

 岬は2キロほど海に突き出し、断崖となって落ち込んでいる。大絶壁「赤壁(せきへき)」と波勝山との間にできたわずかばかりの平地に、野猿と遊べることで人気の「波勝崎苑」があった。餌付けに成功したのは昭和28年のことだそうで、いまでは波勝崎と言えばお猿さんが思い浮かぶほどである。

 入苑料を払うとマイクロバスに乗せられた。いたずらをするようになって、3年前から始めたそうな。わずか100メートルほどの距離を下ると、今度はフェンスのあるレストハウスに案内された。なるほど、サルたちにとっての楽園であって、ここでは人間様がオリに入るわけか。

 「現在約400匹います。向こうで寝そべっているのが14代のボス錦四郎です。ニホンザルは5年で大人の仲間入りをし、およそ30年、犬の2倍くらい生きることができます」

 ここで係員がサルの生態や行動などを解説してくれる。そんな話は上の空で、エサをやるのに夢中の人も。サルたちのユーモラスなしぐさに、あちこちから笑い声ももれた。

 「子ザルに近寄らない」「サルの目をのぞき込まない」などの注意を受け、外に出た。海をバックにサルと記念写真を撮る人も。野生のサルとのふれあいに、しばし時の経つのを忘れた。

 マーガレットラインはさらに松崎町へと続いている。豪快な西伊豆の海岸風景を楽しみながら帰路につくことにした。

 

[情報]南伊豆町役場
〒415-0303 静岡県加茂郡南伊豆町下賀茂
TEL:0558-62-6300

 

 

一人出版社&ネット古書店
MyTown(マイタウン)
E-Mail:こちら
〒453-0012 名古屋市中村区井深町1-1(新幹線高架内)
TEL:052-453-5023 FAX:0586-73-5514
無断転載不可/誤字脱字等あったら御免