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長野県天龍村

大自然の中に息づく民俗芸能の里 信州最南端、天竜村を訪ねる

村のシンボル、天竜川
愛知、静岡に隣接する村

 中央自動車道を飯田インターで下り、南に下って北から天竜村へ入った。普通、町村合併は同じ側の地域でいっしょになるものだが、ここは川をはさむ二つの村が合併してできている。だから、村の中央部を川が流れる格好になり、新しい村名もそこから生まれてきたのだろう。

 まずは川に沿って村の様子を眺めてみることにした。入口付近の天竜川には人だけが通れる釣り橋が架かり、対岸のJR飯田線「為栗(してぐり)」駅とを結ぶ架け橋になっていた。このあたりの天竜川は流れを周りの山々にはばまれ、まるで竜がのたうち回るかのように激しく曲がりくねっている。


川沿いに肩を寄せ合うようにしてある家々
川沿いに肩を寄せ合うようにしてある家々
 やがて川幅が広くなってきたと思っていたらダムに出た。道は左岸に変わっており、ここが旧平岡村の中心部らしい。道路の両側には商店が軒を連ね、なかなかのにぎやかさである。

 さらに車を南へ走らせた。“梅の里”鴬巣(うぐす)地区では折しも梅が満開であった。先ほど見た発電所では桜まつりの準備も進められていた。こちらでは一気に春が来て、花々が一斉に咲き乱れるという感じか。

 集落は天竜川沿いに点在している程度で、その両側は山また山の山岳地帯。川の左岸を飯田線が通っているが、これまたトンネルの連続する難所である。あたりののどかな風景とは裏腹に、厳しい山国の暮らしぶりが感じられてくる。

 対岸に“茶の里”中井侍(なかいざむらい)の茶園を眺めながらしばらく走ると、今度は“ゆべしの里”坂部(さかんべ)集落に出た。出会った村人は左右の山を指さして「こっちの山が静岡県、あっちの山が愛知県」と教えて下さった。まさに信州最南端の村であった。

 

神々の舞う里、坂部集落
珍味「ゆべし」で村おこし

 ここ坂部集落は神の舞う里として知られている。毎年1月4日から5日にかけて「冬まつり」が古式ゆかしく繰り広げられ、神々と人間とが一体となるかのように踊り明かす。20数軒を数えるのみの静かな山里も、この日ばかりは遠来の客で大にぎわいになるそうだ。

 民俗芸能の宝庫とも言えるこの村の、もう一つの顔が先ほど紹介した“ゆべしの里”。「ゆべし」は漢字で「柚餅子」と書き、ユズをくり抜いてミソやクルミ、ゴマなどを詰め込んだ一種の保存食。これが酒のつまみや料理の隠し味として人気を得て、この地区の一大産業?となっている。

 小学校の分校前に、その加工所はあった。中をのぞかせてもらうと、ご婦人方が「東京から注文が来た」と大忙しの様子。みな生き生きと働いておられるのがいい。

 「私たちはまだ『村おこし』という言葉もないころから、村の特産としてこのゆべし作りに取り組んできました。過疎という深刻な問題を抱えながらも、夢だけは失わないでいたい。おばあちゃんたちがこうして元気に働いて下さる姿は、私たちにとっても何よりの励みです」

 こう笑顔で語るのは牽引役とも言える関京子さん。隣の分校は児童が卒業して休校になってしまったそうだが、最高齢の松井千登里さん、82歳は作業の手を休め、「私らの子供のころは60人ぐらいおった」とかつての村のにぎわいぶりを懐かしそうに語って下さるのだった。

 神々の舞うという村はずれの諏訪神社を訪ねてみることにした。山の斜面にはこちらも梅の花がいまを盛りと咲き誇っている。神社は天竜川を見下ろす高台にあったが、祭りのにぎわいがまるでうそのように、境内はひっそりと静まり返っていた。

 

朝霧に包まれた村
意外に大きい平岡集落

 翌朝、早く目が覚めたのを幸い、散歩に出掛けてみることにした。泊まったのは村の中心地、平岡地区。役場や文化センターもあるが、ダムや発電所のあるのもまたここである。

 あたり一面が濃い霧に包まれていた。商店の中にはもう店を開いているところもあり、すれ違う人から朝のあいさつをしてもらえるのも、こうした村ならではか。いつも朝方はこんなに霧が深いのかと思って尋ねてみたところ、「今日のような日はめずらしい」とのことだった。

 飯田線を横切って山側へ歩いて行くと、思っていたよりも多くの家が建ち並んでいた。斜面を切り開いて宅地とした、高い頑丈そうな石垣が美しい。坂をしばらく上るとまた平坦になり、そこも民家が建て込んで小学校まであった。

 民家は道路沿いくらいかと思っていたが、この町はなかなか奥が深い。勤めに出掛ける若い人にも出会った。ここでも過疎化が進行しているとは言うものの、他地域の山村に比べればそれなりに歯止めがかかっているように感じられるのも、飯田線という交通の便に恵まれているからであろうか。

 あたりを一回りすると、今度は川の方に下りてみることにした。役場や文化センター、中学校はこちら側にある。すぐ前の川はダムでせき止められ、石ころの川底をむき出しにしている。水はダムから導水管で下流の発電所へ送られており、水が天竜川に再び戻されるのはお役目を終えてからである。

 橋を渡って反対側の発電所のある方に出た。こちらは傾斜地が多く、民家もまばら。その高みからいま来た平岡方面を振り返ってみると、あんなに深かった霧もいつしか消え、家々のいらかが朝の光を浴びてきらきらと輝いていた。

 

向方集落に伝統のお祭り
人気の秘湯「おきよめの湯」

 向方集落は天竜川の支流、早木戸川をさかのぼったところにあった。この村で天竜川沿いにないのはここくらいか。いまでこそ国道418号で簡単に入れるが、かつては山々に囲まれて人を寄せ付けないところだったのか。ここでも正月3日に「お潔(きよ)め祭り」という花祭りが行われている。

 集落を通り越して、さらに奥の地蔵峠へ。下ではいまに桜が咲くというのに、上はまだかなりの雪が残っていた。標高は1000メートルを越えたろうか、遠くに雪を抱いた御嶽山がきれいに見えた。

 向方には天竜温泉「おきよめの湯」ができ、村内で一番の人気施設となっている。峠から戻ると、早速、温泉に飛び込んだ。無色無臭、透明ぬるぬる、実にいい湯だ。

 ここの露店風呂は周りに囲い塀など囲いはなく、開放感いっぱいで気分がいい。それというのも、すぐ前が川になっており、その向こうは森でおおう必要がないからだ。「こりゃ、最高だよ」と青空を仰ぎながら独り悦に入っていると、後から入ってきたお年寄りが「湯がきれいで気持ちがいいよ」と話しかけてきた。

 その人の話によると、ここでは湯を毎日入れ替えているそうだ。「おきよめ」は「お潔め祭り」から命名されたとは知っていたが、身を清めるためにそんな注意まで払われていたとは。道理できらきら透き通るような、本当にきれいなお湯であった。

 温泉を十分楽しんだあと、併設のレストランで軽く一杯。休憩所で横になり、うとうと仮眠する。これ以上のぜいたくはない。

 南信州にはこうした自治体による温泉施設が目白押しだ。それだけに競争も厳しくなるものと予想されるが、幸いどこもにぎわっているらしい。旅に出ると温泉がやっぱり最高のごちそうである。

 

[情報]天龍村役場
〒399-1201 長野県下伊那郡天龍村平岡878
TEL:0260-32-2001

 

 

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