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愛知県津具村

かつては伊奈街道筋にあった宿場町 いま、ここには新しい息吹が

美林、錦繍に彩られて
紅葉の穴場的存在「面ノ木園地」

 すばらしい紅葉だった。目の前の山々が紺碧の空をバックに、赤や黄に染め上げられている。それも色鮮やかに、山一面を埋め尽くすかのように−−。

 ここは津具村の玄関口、面ノ木園地。つづら折れの坂道からの眺めもよかったが、上り切った峠で目にした景色は見事と言う他ない。紅葉の名所は各地にあるが、これまで「面の木」の名を耳にしなかったのが不思議なほどだ。


紅葉の名所「面ノ木園地」から望む村の風景
紅葉の名所「面ノ木園地」から望む村の風景
 車を捨てて、山の中にはいった。自然そのままの林やブナの原生林がどこまでも続く。木々は訪れた人を包み込むかのようにやさしく、歩いていると身も心も周りの色に染められてしまいそうだ。

 「天狗棚」と名付けられた展望台に出た。ここからは津具の村が手に取るように見える。ところが、それを取り巻く周りの山々は、こちらとは逆に紅葉どころか深い緑におおわれていた。

 「全然、違うでしょ。村内の山を植林する代わりに、ここだけを自然のままに残したんですわ。あまり知られていませんが、こんないいところはまたとないですよ。冬場に来てみなさい、朝日に輝く樹氷がそりゃーあ見事ですに」

 居合わせたのは岡崎から来たというアマチュアカメラマン。ここの自然に魅せられて、四季を通じて来ているとか。よく晴れた日には南アルプスの峰々はもちろん、遠くに富士山を望むこともできるそうである。

 

地味ながら、結構な施設
ご存じ?佐々木味津三

 狩猟や採集を中心とする縄文人にとって、こちらの方がはるかに都会だった。村内には縄文遺跡があちこちにあった。その一つ、大根平遺跡は林を分け入った丘の頂上付近にあり、発掘された竪穴住居の跡などがそのままの形で保存されていた。

 出土した遺物は民俗資料館にあった。こじんまりとした高床式建物の扉を開けてもらうと、中にはあふれんばかりの品々が納められていた。各遺跡から出た土器や石器類をはじめ、つい最近まで使っていた民具や農耕具などに至るまで、村にゆかりのある品々が所狭しと並べられている。

 先に面の木園地内で木地師の復元家屋を見てきたが、ここには木地師や木こりたちの道具類もたくさんあった。大きなノコギリやカンナを前に、どうやって使っていたのかと首をひねりたくもなってくる。彼らの使った道具や製品、仕事着など130点は重要民俗資料として国の指定を受けているそうである。

 館内を一回りした後、もう一つの施設、文化資料展示センターをのぞいてみた。こちらはその名の通り、地元から出た文化人などを紹介する施設。この村に関係する学者や画家、書道家などの経歴や作品が展示されていた。

 そんな中で興味をひかれたのは作家佐々木味津三のコーナー。名前を知らない人でも『旗本退屈男』や『右門捕物帖』の名を挙げれば思い出してもらえようか。直筆の原稿や本、映画や芝居などのポスターがずらりと並べられ、それらの中ではひときわ異彩を放っていた。

 玄関を出て、庭の片隅に目がいった。はいるときには気付かなかったが、やっぱりこの村へも来ていたのか。そこには一本の木が植えられ、かたわらに立てられ木柱には「市川歌衛門先生植樹」の文字が書かれているのだった。

 

正月2、3日に「花祭り」
武田の軍資金に「津具金山」

 これから奥三河地方は花祭りの季節にはいる。1月初めが中心だが、早いところでは11月、逆に最も遅いのは2月にはいってからのものもある。いてついた寒気の中で繰り広げられるこの郷土芸能は民俗学者の折口信夫や早川孝太郎の紹介で全国的に有名になった。

 花祭りは鎌倉時代の末ごろ、修験者によって伝えられたと言われている。五穀豊穣や無病息災を祈り、神と人とが一体になるかのように、鬼とともに夜を徹して踊り続ける。以前、隣りの東栄町で見たことがあるが、たくさん詰めかけた見物人とともに、こちらも知らないうちに踊っていた。

 ここ津具村では白鳥神社で正月2日から3日にかけて行われる。祭りで使われる鬼の面や道具類は昨日、民俗資料館ですでに見てきた。宿の女将に「いま行っても何にもないですよ」と笑われたが、祭りの行われるところがどんな雰囲気かをこの目で確認しておきたい。

 神社は白鳥山という山のふもと近くにあった。山道にはいるとポツンとお堂が建っていたが、それが花祭りの行われる舞台だった。さらに登ると樹齢数百年という何本もの古木に囲まれ、ひなびた社殿がひっそりとたたずんでいるのだった。

 山といえば、昨日訪れた「信玄坑」も紹介しておかなくてはならない。地図には「信玄こう」とあっただけなので何のことだか分からなかったが、 行ってみると「こう」は「坑道」の「坑」で金を掘った跡だった。古くは武田信玄の軍用金として採掘され、まだ昭和30年ころまで掘られていたそうだ。

 急な山道を息をはずませながら登ると、それは山腹にぽっかりと口を開けていた。もちろんはいることはできないが、かなり深くまで掘られているらしい。中はどんな構造になっているのか、こんな山奥が坑夫たちでにぎわったのか、精錬はどこでやったのか−−静まり返った山の中で、空想が脳裏を駆けめぐった。

 

過ごしてみたい、高原の休日
「道の駅」と「つぐ高原グリーンパーク」

 村が「日本でもトップクラス」と自慢する施設が“アウトドアの楽園”と銘打たれた「つぐ高原グリーンパーク」。村の中心から長野県に抜ける道路脇にあり、「道の駅」も兼ね備えた複合施設だ。シーズンも終わってさすがに利用者はいなかったが、ここを通るドライバーたちが次々と車を止めてゆく。

 道路に沿って遊園沢川が流れている。その向こうのグリーンパークとは数本のブリッジで結ばれ、整備された川岸やしゃれた建物群はここを通る人の目にいやでも入ってくる。何しろ、山の中に突然現れてくるのだから、その印象は強烈だ。

 山すそに造られた広大な敷地に売店やレストラン、ペンション、研修棟をはじめ、アウトドアライフの拠点となるキャンプ場やオートキャンプ場、バンガロー、さらにはグランドにテニスコート、パターゴルフ場、釣り堀などもあった。中でもオートキャンプ場は「リバーサイドエリア」と山側の「ウッディエリア」の2カ所に設けられており、村が「これだけのものはそんなにはない」と自慢するだけのことはある。

 遊歩道に沿って森の中にはいった。高台には天文台あった。空気の澄んだここでは星空までもがセールスポイントの一つになっているにちがいない。

 キャンプ場の方へ回ってみると、管理棟で忙しそうに働く人たちがいた。売店で売られていたかわいらしい木製のアクセサリーなどはここでも作られていたのか。この日はどこかから特別の注文があったとかで、ノコギリを握る手にも一層力がはいっているようだった。

 「夏場は断るほどの人気だよ。名古屋からのお客さんも多いね。今度はぜひシーズン中に来て下さいよ」

 園内をぶらぶら散歩していて、そんな気持ちになりかけていた。できることなら、そのころもう一度来てみたい。ここなら大自然に包まれて、ゆったりとした休日がすごせそうである。

 

[情報]津具村役場
〒441−2601愛知県北設楽郡津具村字見出原33−1
TEL053683−2301

 

 

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