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岐阜県清見村 |
清らかな自然が息づく村 ラベンダーの里、夏もにぎわう
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インターできて便利に
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せせらぎ街道沿いにある平滝 |
巣野俣(すのまた)の交流施設「ふるさと学校」とオートキャンプ場を横目に、分水嶺でもある西ウレ峠(標高1113メートル)へ。川上川に別れを告げ、今度は馬瀬川とともに下ることになる。いつもならここで一休みするドライバーも多いはずだが、インターの開通でこちらの交通量は激減していた。
山を下って楢谷地区から大原地区へ出る。一筋の流れでしかなかった馬瀬川もこのあたりでは渓谷となって美しさを増してくる。両側に低い山々をひかえ、のどかな山村風景が広がっていた。
馬瀬川は釣り人にも人気がある。そんなせせらぎを見ていると、いかにもいそうな感じがする。同行の相棒は渓流釣りの達人でもあるが、運転しながら「このへんもよくいるんですがねえ」とうらめしそうな目つきで眺めているのだった。
村の南端にある「パスカル清見」はドライバーのオアシス。村の特産品を扱う売店や飛騨牛、川魚などの食材を生かしたレストランが建ち、道路情報を提供する「道の駅」も併設されている。そして、ここにもまたラベンダーの花壇があり、周りに甘い香りを放っていた。
売店の入口付近に並べられた白い山ツツジに目がとまった。山ツツジと言えば朱色だが、どうしてこんな色が。
「めずらしいだろ。清見村の名物じゃ」
この人は大谷筆造さんと言った。20年ほど前、大原上流の馬瀬川で2輪見つけた。この話を聞いた京都のツツジ博士がわざわざ来村、「どこにもない。日本一の珍種」と太鼓判を押したほど。なかには「いくらでも出すから売ってくれ」と何度も足を運んでくる人もいたそうだ。
大谷さんは丹誠込めて育て上げ、さし木で増やしたのを売っている。1鉢3000円くらいのものから、高いのになると40万円ほどのものまで。事情を知らない人からは「ばか高いツツジを売っとる」と陰口をたたかれることもあるそうだが、「どこにもない」強みで売れ行きはまずまずのようだ。
馬瀬川をはさんだ反対側には芝生広場や果樹園が広がり、その中にはしゃれたホテル「パスカル清見」やそば打ち、豆腐作りなどもできる「体験館」も建てられていた。ホテルは若い女性にもなかなか人気だとか。少し離れた川沿いの森にはオートキャンプ場もあった。
この馬瀬川一帯はふるさと公園とされ、自然の中でゆったり遊ぶことができる。たまには都会の喧噪を逃れ、1日をここで過ごすのもいいかも。うっかり聞き忘れてしまったが「パスカル」にはどんな意味があったのだろうか。
平滝近くの山中に大倉の滝と名付けられた滝があるらしい。車でも行けるそうだが、歩いても30分ほどだとか。川上川の支流に沿って歩くことにした。
渓流伝いに遊歩道が続く。湿気が多いのか岩や木の根元はこけむし、その濃緑色がまた目に鮮やか。驚いたことに、滝は次々と現れてきた。
大きな岩陰にできたなだらかな滝、平ぺったい岩に当たり三方に薄くひらひらと飛び散る滝、幾重にも折り重なって滑り落ちる滝。急流あり、深淵あり。これは予想をはるかに上回る展開になってきた。
せせらぎ街道はこれまでに何度も通っている。とりわけ新緑の春や紅葉の秋にはその美しさに感動したものだ。しかし、こんなにいいコースを知らないでいたとは、これまで一体、何を見ていたというのだろうか。
やがて登竜門滝と呼ばれる大きな滝の前に出た。水は絶壁を滑るように落ち、岩にはばまれて右に左にと折れ、さらに下流へと落下してゆく。その様は巨大な一頭の竜がのたうち回って天に登っていくかのようにも見えた。
圧巻は最奥にあった大倉の滝。落差は6、70メートルほどもあろうか。切り立った岩からほとばしるように流れ落ち、その途中にある岩にぶつかって、周りに一層激しく水滴を飛散させている。
大粒の水滴が逆光の中できらきら舞った。岩陰に咲く山ツツジの朱色が彩りを添えている。豪快にして華麗、そして優雅。しばし涼風の中に立ち尽くし、美しい姿に見とれるのだった。
それにしても、こんないいところがあったとは。車で来ると上から歩いて下りてくることになるが、それでは半分も楽しんだことにならない。ここはやはり下から登ってくるのが一番で、このコースはもっと多くの人に知られてもよい。
インターの開通でせせらぎ街道の利用者は減ってきている。それだけに、ここを観光スポットとして、もっと売り出してはどうか。これほど見どころが圧縮され、それでいて手軽に登れる渓谷は、他にあまり見当たらないのだから。
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