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三重県飯南町

山里で出会った自然と人情 これが本当のふるさとなのか

大自然息づく緑と清流の町
深蒸し煎茶日本一の町

 飯南町は三重県のほぼ真ん中に位置し、おへそにも例えることができようか。町内の中央部を清流櫛田川が流れ、上流では美しい峡谷を造り出している。周りには標高1029メートルの局ヶ岳を筆頭に、500から800メートルほどの山々が連なっている。


町内を流れる清流・櫛田川
町内を流れる清流・櫛田川
 山のふもと一面に茶畑が広がっていた。どうやらお茶は特産の一つらしく、後に「深蒸し煎茶日本一の町」と大書された看板も見かけた。よく整備された茶園の風景はのどかで清々しきものがあった。

 「このへんの山は高て、標高差がありますやろ。それに川からは霧が出やすいんです。そんな気象や風土がお茶作りによう合うんですわ。品評会に出しても毎年のように優勝していて、何べん飲んでもここのお茶がやっぱり一番うまいなあ」

 犬を連れて散歩中のおじいさんはこう言ってふるさとのお茶を自慢された。特に葉を長時間蒸して作る深蒸し煎茶は好評のようで「本場と言われている静岡のお茶にも負けていない」。聞けばやはり栽培に携わっておられる方だった。

 町内を走っていると材木を積んだトラックによく出会う。製材工場もあちこちで見かけた。林業が町の基幹産業でもあり、製材所の数と杉皮の生産量はこれまた「日本一」だそうな。

 「町の花」がお茶なら「町の木」はヒノキ。学校は内装に地元産のヒノキ材をふんだんに使ったぬくもりのある校舎だとか。道路脇にあった大鳥居をくぐり神社の高台から町を見下ろすと、広大な茶園が緑のジュータンを広げたように延び、その向こうの山々はよく手入れされた緑の木々でおおわれていた。

 

千枚田もびっくり、だんだん田
天に至る集落、ここにあり

 なんなんだ? 道沿いに「だんだん田」の案内板。「石の芸術」とのコピーも付けられている。興味を抱いて山側の深野地区に入ると、やがて石垣のある面白い光景に出くわした。

 それにしても、よくもまあ、これだけ積み上げたもの。そこは山裾の急斜面を石垣でせき止めせき止め、階段状に切り開いた一大集落だった。家や屋敷も田も畑も、見事なまでに石垣でガードされている。

 迷路のような曲がりくねった道を、さらに奥へとどんどん突き進んだ。家数はおよそ100軒ほどもあろうか。これほどの規模で展開しているのは壮観ですらある。

 「深野」の地名も山野を深く開拓したことから名付けられたとか。また一説には隣接する美杉村から逃れてきた平家の子孫がここに住み着いたとの伝説もあるらしい。きれいに積み上げられた石垣を見ていると、気の遠くなるほどの営みが感じられてくるのだった。

 集落の一番奥まで登り詰めた。ここまで来るとかなりの高さになっている。上の方にも人家はあるが、だんだん畑ならぬだんだん田“棚田”が多く、石垣の造形美がひときわ見事だった。

 振り返るといま来た深野の集落が櫛田川に向かって広がっている。下から見上げた景色とは異なり、まるで箱庭でも見ているような錯覚にとらわれた。そして正面には山並みが幾重にも重なり合っていて、この町が山深い高地であったことを改めて確認させられるのだった。

 かたわらにある柿の木は実をたわわにつけていた。鳥もとらないところをみると、おそらく渋柿にちがいない。色づいた鈴なりの実に、秋がぽつんと取り残されているようだった。

 

深野地区は松阪牛のふるさと
チャンピオンに賭ける人たち

 上の方は松阪牛を飼っている農家が多いそうだ。確かに畑に糞はまかれていたが、牛舎らしいものはどこにも見かけない。まさか座敷で飼われているわけでなし、どうなっているのか。

 その一軒、栃木治郎さん方をのぞいてみた。栃木さんは共進会で優秀賞を取る飼育の名人と聞かされていたからだ。ちょうど仲間が集まって勉強会の最中のようだった。

 「ここは栃木部屋だよ。10軒ぐらいでグループを作って、みんなが一生懸命きばってるんですわ。3回目のチャンピオンもろて、これからは追われるようになってしんどいですわ」

 「牛にビールやるけど、自分は飲まへんな。稲だって米よりわらの方が大事やし。牛にとっては愛情が一番のごちそうですわ」

 この地区が飼育に適しているのは、?高地で涼しく、梅雨どきでも湿気が少ない、?水はけがよいから病気にかかりにくい、?きれいな飲み水に恵まれている--などがあるらしい。やはり名品は環境によって生み出されると言うべきか。牛の散歩も大切な日課の一つだそうで、だんだん田の坂道を牛とともにのんびり歩いている光景は想像してみただけでも微笑ましい。

 「チャンピオンになったら1000万を超すけど、悪い方に転ぶと百数十万にしかならへんでな。子牛の仕入れ値が100万もするんで、そゃり命がけですわ」

 牛舎はきれいに手入れされていて、外からは分かりにくかったはず。栃木さん方ではいま5頭が飼育されており、優勝したばかりの「ゆきみ」号もいた。栃木さんの「来年もこの部屋で取りたいよ」の言葉に、メンバーたちは大きくうなづかれていた。

 

町内の探検へ、拠点は「茶倉」
都会の人との交流広場

 櫛田川沿いにある、その名も「リバーサイド茶倉」。北欧風のペンションをはじめ、コテージやバンガロー、キャンプ場、テニスコートなどを備えた町営の総合レジャー施設だ。この町でゆっくり過ごしたい人には格好の宿泊基地でもある。

 「チャクラ」とはサンスクリット語の「輪」という意味だとか。これに「茶倉」の字を当ててこの町がお茶の宝庫であることをアピールしている。周りには茶畑も広がっており、ここで出される“食べるお茶料理”萌季づくしは新しい郷土料理として人気がある。

 訪れたときは冬場とあってって人影もまばらだった。しかし、春から秋にかけてはここを舞台に茶つみ体験や水辺のカーニバル、茶倉マラソンなど、様々なイベントも企画されているとのこと。中でも松阪牛の食べ放題“牛まつり”があると聞かされ、思わず舌なめずりをしてしまったのは、ちょっとはしたなかったか。

 飯南町には大自然がそのまま息づいている。シーズンともなれば清流ではアユやアマゴが釣れ、野山ではワラビやゼンマイとり、昆虫採取なども楽しめる。また、ここからは背後にある烏岳へは40分ほどで登れるそうだし、先に訪れた深野地区の白猪山もファミリー登山にいいらしい。

 村では「ふるさと会員」を募集して都会の人たちとの交流を深めている。会員になると定期的にお茶や牛肉などの特産品が届けられ、ここ「リバーサイド茶倉」の割引優待などもある。飯南町を第二のふるさとのように思っている人も少なくないそうだ。

 その夜、食卓を飾ったのは豪華なぼたん鍋だった。この町ではイノシシも元気に山野を駆け回っているらしい。寒いときにはぴったりの料理で、お酒がいよいよおいしくなってきた。

 

[情報]飯南町役場
〒515-1411 三重県飯南郡飯南町大字粥見3950
TEL:059832-2511

 

 

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