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長野県南信濃村

南アルプス西麓の秘境、遠山郷 心やすらぐ山紫水明の地

東西に山脈、谷底の村
遠山氏の家紋の由来とは

 なるほど、これはすごいところだ。中央高速を飯田インターで下り、矢筈(やはず)トンネルのある三遠南信自動車道を通って南信濃村へ。インターから一時間以上もかかったことになる。

 東には3000メートル近い山々の連なる南アルプス、西にはいま越してきたばかりの伊奈山脈。集落はV字状の谷底をはうようにして流れる遠山川沿いに点在していた。

 車社会になった現在でも、隔絶された様子が色濃く残る。天は抜けるように高く、空気までが澄み切ってうまい。初めて訪れた信州の秘境に心は踊った。

 まずは村の中心部にある郷土館和田城を訪れた。戦国から江戸初期にかけて遠山氏3代が居城した城跡だ。堀や土居など城の遺構らしいものは認められなかったが、整備された庭には2代城主土佐守景直が家康と対面する像が飾られていた。

 遠山氏の家紋は丸の上に横二本棒。これには面白いエピソードがある。

 景直は大坂の冬夏両陣で戦功を立て、後に家康から岡崎城へ呼ばれた。酒食でもてなしを受けたとき、お椀を手で隠すようにして食べるので、不思議に思って家康は尋ねた。すると景直は恥じらいながら「わが領国は貧しく雑食が主で、貴人の前ではこうして食べるようになっている」と。不敏に思った家康はその場で1000石を加増するとともに、碗の上に置かれたハシを見て「以降は丸に横二本棒を家紋にするように」と命じたという。


遠山氏の墓のある竜淵寺
遠山氏の墓のある竜淵寺
 城跡には遠山氏の菩提寺、盛平山竜淵寺(りゅうえんじ)もあった。樹林の中に建つ清楚な禅寺である。本堂の裏手に回ると樹齢450年という大杉が4本並び、その根本に遠山氏一族の墓が丁重に祭られていた。

 

観光の目玉「せせらぎの里」
体験メニューで1日村民

 さらに南へ下って八重河内地区へ。遠山川の支流八重河内川のまた支流、梶谷川のほとりに「せせらぎの里」と名付けられた観光施設があるらしい。秘境を売り物に村が力を入れているところだとか。

 ゆっくりと回る大きな水車が里のシンボルだった。天然温泉「ぬくもりの湯」や宿泊施設「やまめ荘」、それに陶芸教室やそば打ち道場などもある。特産品を売るコーナーには様々な山の幸が並べられていた。

 隣の食堂をのぞくと、囲炉裏を配して野趣あふれる郷土料理のメニューが。駐車場にとまっていた観光バスの一行はどうやらここがお目当てであったらしい。店内は満員の盛況ぶりで、貸し切り状態のようだった。

 そう言えば、町で見かけた肉屋さんはシカ肉やシシ肉の専門店みたいだった。食堂で食べたカレーライスはシカ肉を使ったこの町ならではのものか。「カレーに使うのはもったいないよう」と言うと、そのご主人は「いるいる。多すぎて困るほどだよ」と笑って答えてくれたものだ。

 この「せせらぎの里」では20を越す体験プログラムも用意されている。そば打ちやキジの丸焼き、きのこ採りのコースは舌なめずりしたくなりそうだし、バードウォッチングやハイキンク、渓流釣りなどもまた楽しそうだ。陶芸や炭焼きの体験コースもなかなかの人気だとか。

 「あれ? あんな高いところにまで家があるよ」
 「こちらにだって家を建てる土地ぐらいはあるだろうに……」

 背後の山を仰ぎながら、観光客が驚きの声を上げている。「せせらぎの里」の後ろにも急斜面の山がひかえ、山麓には張り付くように人家が点在していた。そんなのどかな山里に造られたふれ合いの場には村おこしの夢がかけられており、ここばかりはにぎやかな観光客の声であふれていた。

 

秋葉街道の面影をたどる
旅人の心いやした峠の仏

 秋葉街道が遠山川に沿って村内の中心部を通っている。諏訪から遠州の秋葉神社へ行く信仰の道であり、また、人々の暮らしを支える生活物資の行き交う道でもあった。いまは国道152号になっているが、八重河内川をさかのぼり始めると途端に悪路になる。

 対岸に梁木島(はりのきじま)番所跡があった。大坂夏の陣の折、大坂方の落人がまぎれ込むのを監視するために設けられたそうだが、やがて通行人や材木などの出入りに目を光らせる役目に。古びた建物が残るだけかと思いっていたら、何とその隣に90歳になるという宮下巌さんが“番人”としていまもお住まいだった。

 「よくおいでた。昔は街道はこっち側じゃったが、急な崖でここから先へは進めなんだ。すぐそこに丸木橋があってな、それを渡ってあっち(国道側)へ行っていたんじゃ」

 「息子3人は東京へ出てってまったよ。でも、いつかは帰ってきてくれると信じて、いまもこうして待っているんじゃ」

 丸木橋はつり橋に変わっていた。Uターンして再び国道へ。道はつづら折りとなり、ぐんぐん高度を上げていく。

 舗装がとぎれたかと思うと、やがて行き止まりに。静岡県との境をなす青崩峠(標高1083メートル)が行く手に立ちはだかっている。宮下さんの「地名からも分かるように崩壊が激しく、峠越えの道はいつしか途絶えてしまった」という話を思い出した。目の前には幾段にも積み重ねられた大規模な砂防堤が広がっている。

 下は紅葉にまだ少し早かったが、こちらはいまが真っ盛りである。落ち葉を踏みしめながら山道を20分ほど歩くと峠にたどり着いた。そこにはかつての往来をしのばせるかのように、小さな祠に納められた観音像と苔むした野ざらしの石仏がひっそりとたたずんでいるのだった。

 

南の玄関口、兵越峠
祭りしのばせる秘境の名湯

 青崩峠の東側を迂回して県道がバイパスの役目を果たしている。車で来村する人にとっては、唯一とも言える南の玄関口。ついでに足を延ばしてみることにした。

 こちらにしたってなかなかの難所だ。県境には「兵越峠」の名が付けられていた。武田の軍勢がけわしいこの山道を南下していったことからこの名前が生まれたとか。

 毎年秋、峠をはさんで静岡県の水窪町(みさくぼちょう)との間で綱き合戦が行われる。先日、その模様をテレビで見たばかりだったが、境界線を引き寄せる国盗り合戦は名物行事となりつつあるようだ。しかし、訪れたこの日はまったく人気(ひとけ)はなく、時々思い出したように車が通り過ぎてゆくだけだった。

 引き返して今度は町中にある「かぐらの湯」に入ることにした。村営の日帰り温泉施設だ。木をふんだんに使った豪華な造りで、早くも村の人気スボットとなっている。

 ヒノキ風呂あり、露天風呂あり、サウナあり。広々とした浴室では様々な風呂を楽しめた。南信地方には競い合うようにしてこうした施設ができているが、身近でこんないい湯に浸れるのかと思うと秘境での暮らしも快適になった。

 湯船にゆったり身を沈めながら思った。今度は12月に行われる霜月祭りの日に来てみたい、と。祭りは国の重要無形民俗文化財に指定された伝統行事で、この温泉の名称も湯立て神事の合間に演じられる神楽から命名されたものだった。

 

[情報]南信濃村役場
〒399-1311 長野県下伊那郡南信濃村和田1379
TEL:0260-34-5111

 

 

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