マイタウン(MyTown)| 一人出版社&ネット古書店 |
長野県阿南町 |
山国に息づく素朴な民俗芸能 のんびりゆったり、心まで温まった旅
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神々の住みたまう里
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「日本一」と言われる土蔵の資料館 |
熊谷さんに勧められ て博物館めぐりをすることにした。この町には美術館や化石館、記念館などもあるらしい。まさか山里でそんなにも多くの施設に出会えるとは思ってもいなかった。
国道脇の高台斜面に直径20メートルもあろうかという大時計が見えた。そして、高台の上には大きな建物がいくつも建てられている。あれが町の自慢の一つ“コミュニテイーの森”で、町民会館や文化会館、グランド、少年自然の家など、十数種類の施設が固まってあった。
西尾実記念館はこの森の一角に造られていた。博士の名を知らない人でも教科書や参考書などで出会ったはずで、国立国語研究所の初代所長をも務めた国語教育の大御所だ。岩波『国語辞典』の編者の一人でもあり、筆者などは座右でいまもお世話になりっ放しである。
世話になっているとは言っても博士の人柄などは知る由もなく、ましてや出身がこの町の帯川だったとはここへ来るまで知らなかった。記念館には書斎が復元され、その著作物や蔵書、愛用の品々や手紙などが整然と並べられていた。地元の人たちに宛てた手紙を読んでいると、博士がいかに故郷に思いを寄せていたかが分かり、何と『帯川の話』という本は亡くなる前年、90歳のときに書かれたものだった。
居合わせた町の職員は「町でただ一人の名誉町民でした。手紙や揮毫などを見ていると、文字にも先生の人柄までが表れているようで」と話し、生前のエピソードなども披露して下さるのだった。地味な記念館ではあるが、これこそが阿南町ならではのものではないか。博士の名は知らなくても、だれもがどこかで必ず世話になっているはずだから。
帰りぎわ、ふと思った。短文や恋文で町おこしをに成功したところもある。阿南町もこの記念館を拠点に、何か面白い企画を考えられるのではないか、と。
今日の泊まりは湯けむりの里「ゆうゆ〜らんど阿南」。ここは露天風呂、サウナなど10種の湯が楽しめる大浴場「かじかの湯」をはじめ、阿南焼に挑戦する「陶芸体験館」やレストラン、特産品直売所、コテージ、キャンプ場などがある。これらの施設は国道近くの門原川沿いにあり、伊那路の新しい観光名所となっている。
首まで湯につかっていると、今日一日の疲れが消えてゆく。それにしても、雨だというのによく回ったものだ。博物館めぐりは雨の方が落ち着いた雰囲気にひたれ、かえってよかったかもしれない。
うまいことに、雨のせいで利用者も少ない。広々とした浴場には人影もまばらで、より一層ぜいたくな気分にさせてくれる。気泡湯、露天風呂、低温浴に打たせ湯と、心ゆくまで温泉を堪能するのだった。
隣りのレストランで冷たいビールにのどを潤し、おいしい郷土料理に舌鼓を打った。すっかり出来上がってコテージにはいれば、これはこれは、木の香も匂ってきそうな新しさ。ログハウス風のしゃれた2階造りで、空調や調理道具などの設備も完璧である。
隣りの棟に泊まっている6人の中年組はどうやらアウトドアの達人らしく、「旅はこれに限る」と雨のうっとおしさも吹き飛ばすかのような元気さ。食料や酒などを持ち込んで、これから宴会が始まるところらしい。あわただしそうなその準備ぶりを眺めながら、「安くて上手に遊ばれるものだ」と感心させられた。
テレビは明日も雨だと報じている。夜中、ザアザアという音を聞き、まどろみの中で「やっぱり雨か」とあきらめた。2日も雨にたたられてしまうのか……と身の不運を嘆きたくもなってくる。
翌朝、部屋に差し込む光で目が覚めた。念ずれば通ず、雲一つない青天井。雨だとばかり思っていたが、それは前を流れるせせらぎの音だった。
これで旅が一層楽しくなってくる。さっそく朝の散歩に出かければ、「ゆうゆ〜らんど」内には遊歩道が設けられ、森の中からは小鳥たちのにぎやかなさえずりも聞こえてくる。やっぱり旅は好天に恵まれなくては--。
古城八幡社は急な坂道が印象的だった。下条氏によって建立された関昌寺は〃龍門〃と呼ばれる山門が美しかった。湖上の祇園祭りが見物という深見池では太公望たちののんびり釣り糸を垂れる姿も見受けられた。
地図を眺めていて「弁当山」という面白い名称に目がとまった。国道を挟んで深見池とはちょうど反対側にあり、車で頂上まで登ることもできるらしい。さっそく行ってみることにした。
頂上には展望台が作られていた。途中、子供たちの登ってくる姿を見かけたが、地元の人たちにとってもここは格好の見晴らし場であるらしい。絶景かな、絶景かな、なるほど眺めは抜群である。
ここからは阿南の町が手にとるように見えた。国道が蛇行しながら走り、その向こうには天竜川も見え隠れしている。目をこらすと先ごろ開通したばかりの新南宮橋の白い大きな鉄塔も見えた。
そのはるか彼方には南アルプスの連山が屏風のようにそそり立っている。目を左手に移すと、それに連なるようにして中央アルプスが続く。麓の方に広がっている大きな町並みは飯田市の市街地なのだろうか。
振り返って今度は逆の方向を眺めると、三河と信濃の国境をなす茶臼山がかすかに望めた。その手前には昨日訪れた新野盆地もあるはずだ。弁当山は標高1000メートルにも満たない山ではあったが、この日、好天に恵まれて大パノラマを心ゆくまで満喫することができた。
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