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■護衛部隊の艦艇

『護衛部隊の艦艇』―研究と出版、鬼気迫る生き様

 著者の渡辺博史さんには当店から『尾張藩幕末風雲録』と、もう一冊、同じ題名で『追録』を出させてもらっている。日本海軍を中心とした軍事史の研究家で、今回出た『護衛部隊の艦艇』全4冊が20点目の自費出版になる。

 著書の代表的なものをあげると、潜水艦部隊を記録した『鉄の棺』全5冊、海軍基地航空部隊の記録『空の彼方』全8冊をはじめ、『潜水艦関係部隊の軍医官の記録』全2冊、『海軍軍医官・薬剤官・歯科医官等の記録』全5冊、『海軍艦船要覧』全1冊などがある。これらはいずれも細かな文字をぎっしり詰め込んだデータブックと言えるもので、1冊が400頁から600頁にも及ぶ労作である。

 これを全部パソコン(それ以前はワープロ)で入力し、プリントアウトしたものを縮小して版下にされている。入力だけでも気が遠くなるような作業なのに、打ち終えた後にはさらに校正などが加わってくる。これだけの仕事をよくぞ独りでやられたものと感心してしまう。

 しかも、出版される部数はいずれも自家本として40部作るだけという徹底ぶり。出来上がった本は国会図書館や愛知県図書館、防衛省の防衛研究所、靖国神社などに寄贈し、残った一部を当店が売らせてもらっている。しかし、もうないものが多い。

 少部数の出版では当店もめずらしい存在だと思っているが、ソロバン勘定を度外視した渡辺さんにはとてもかなわない。こちらは少なくても再生産できるくらいのケーサンはしている。そのひたむきな努力と情熱、そして無欲な姿勢にはただただ頭が下がるばかりである。

 その渡辺さんが今年、ガンであることが分かった。精密検査の結果、医師から「もう5年早く来てくれていたら」と言われ、「手術のしようがない状態」と宣告されてしまった。一時はさすがに落ち込んでおられたが意を取り直すように、これまでやりかけだった仕事に猛烈な勢いで挑戦され始めた。

 渡辺さんは今年80歳になられた。宣告後、初めてできたのがここに紹介した『護衛部隊の艦艇』である。この本も3冊構成で、総頁数は1400をはるかに上回っている。

 本の副題は1冊目が「駆逐艦一」、2冊目が「駆逐艦二」、3冊目が「駆逐艦三・水雷艇・哨戒艇」となっている。渡辺さんが長年かけて調べられてきたものだ。わが国海軍の艦艇とその動きが詳述されており、貴重な戦史資料となるにちがいない。

 渡辺さんは今回の完結にほっとされる一方、早くも次の仕事にも取り組み出された。その一つが2冊書いてもらった『風雲録』ではあったが、そこに盛り込めなかったエピソードや思いなどを一種の“落ち穂拾い”としてまとめ、三部構成にして完結しようとの構想だ。これには自分から書いているだけの時間的余裕がなく、語り下ろしとして知人にレクチャーされ始めたところである。

 

「護衛部隊の艦艇(四)」の編集後記より

 著者の渡辺博史氏はその著「壮絶・決戦兵力 機動部隊(一)」で航空母艦や戦艦といった、いわば日本海軍の華ともいうべき機動部隊の諸艦艇の記録を取り纏められた。これらの艦艇の多くは、雑誌や書籍でも目にする機会の多い著名な大型艦であり、また、日米空母艦隊決戦の主力艦でもあったため、なじみを感じられた向きも多かったかと思う。

 ところが、一転、今回の著作で、渡辺氏は、太平洋戦争のただ中、海上輸送船団の護衛を主要任務とする一見地味で、これまであまり取り上げられることの少なかった海防艦の記録に取り組まれた。これは、日本海軍の軍事史の全体像を把握するためには、大艦艇だけでなく、中小艦艇やその他の艦船をも含め、総合的・網羅的に考察しなければならないとする渡辺氏の基本的立場を具体化したものといっていい。以前から、渡辺氏は、中小艦艇や特殊艦船など目立たない艦船にも、戦時下ならではの人知れぬ苦闘があったと話しておられたのである。

 海防艦というのは、単に海軍で縁の下の力持ち的存在だったというだけではない。本書における各艦の記録を読めば、太平洋戦争下、海防艦がいかに過酷な状況で任務に当たり、また激烈な奮闘をしたかが理解できよう。

 聯合艦隊が弱体化してからは、海防艦は貴重な残存兵力として、一層前面に立たされることとなった。また、一方で「金塊1屯を搭載」(現在価値にすると40数億円相当)して上海まで輸送するという興味深い任務も遂行している(本書19、143、216頁参照)。

 本書中の海防艦各艦の履歴を見ていくと、最後の方で「米潜水艦の攻撃により被雷沈没」、「敵艦上機の攻撃を受け沈没」といった記述の艦が少なくないことに気が付く。さらに戦死した方々の人事記録が、戦闘の壮烈さを物語る。

 戦時下、通商破壊戦を意図した連合国側は、圧倒的優位にある潜水艦と航空戦力で、我が国輸送船団及びその護衛部隊を容赦なく攻撃した。船団護衛の任に当たった海防艦はよく敢闘したものの、当時搭載されていたソナーや爆雷投射装置は性能的に劣るものであり、また対空戦闘設備も不十分なものであったため、海防艦の損耗率はきわめて高いものとなった。

 本書の記録にあるように、終戦後は、生き残った海防艦の多くが「特別復員輸送艦」として、復員輸送の任務を果たした。その後、賠償艦として連合国側に引き渡され、あるいは海上保安庁の巡視船として転用されるなどの運命をたどった。海防艦は、戦争が終わってもなお、新たな使命のもとに奮闘し続けたのである。(永井久隆)

 

 


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