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名所図会


やっとできた!
『のーと尾張名所図会』全13巻

 『尾張名所図会』を隅から隅まで読んでみたい――郷土史の出版をしていて、これが一つの夢でもあった。それも独りで読むのではなく、みんなとワイワイガヤガヤやりながら、楽しく読めないものか。

 そんな思いがいつも心の片隅にあった。平成7年、思い切って「尾張名所図会を原文で読む会」を名乗り、そのテキストも兼ねて同書前編巻一の復刻に踏み切った。それも読みやすいよう大判(A4判)にし、さらに全13巻の出版を目指した。

 その一方で、指導していただく先生探しが急務となった。店に来ていただくお客様の中に、古文書に関心の深い方が何人かおられる。そのうちのお一人に事情を話すと「ぼくでもよけりゃ」と引き受けてもらえ、この方が長年にわたって最後まで読み切ることになる栗花光彌先生だった。

 先生は当時すでに定年退職され、趣味で古文書を楽しんでおられた。以前は大手の電機関係の会社におられ、営業畑で活躍されていたらしい。まったく違う分野に興味を持たれ、のめり込まれたという異色の方でもあった。

 古いことで記憶もあいまいだが、最初に出した『のーと尾張名所図会』前編一の「あとがき」を見ると、先生は「平成七年七月から始めた」と書かれておられる。もう18年も前のことになる。この間、わが身にもいろいろなことがあり、それらまでが思い出されてくる。

 『尾張名所図会』は比較的読みやすいが、中には難しい和歌や漢詩などもある。先生は律儀にも講義に先立ち、手書きの翻刻文を配布されるのが常。さらに取り上げる現地の写真まで示し、その熱の入れようは大変なものだった。

 初めのころは月に1回だったが、受講者の中から「これでは(死ぬまでに)読み切れない」との声も出て、やがて月2回開催するようになった。毎回、10人前後の参加者があり、和気あいあいの中で進められた。中には事前に、あるいは事後に現地を訪ねる人もあり、雑談のひとときがその報告会となることもしばしばだった。

 『のーと尾張名所図会』はこうして講義に合わせてできてきたものだが、終盤にさしかかって先生が脳梗塞で倒れられる事態になった。一時はだれもが「これで終わりか」とあきらめかけた。しかし、先生の「全部読み終わるまでは死ねない」との強い意志で、見事に復活・再開された。

 とはいえ、半身はご不自由で、ツエも必要とされた。現地を訪れるとき、いつもは奥様が助手席でナビケーターをされていたが、復帰後は運転手となって最後まで回り続けられた。講義の折も奥様が付き添われ、見守るように後ろの席で聞いておられた。

 この『のーと尾張名所図会』はそうした中で書き残されたものである。幸いにも右手はよく動き、筆跡も以前とさほど変わらない。しかし、その後は発声にもときどき苦労され、ホワイトボードに書かれる文字のスピードも明らかに落ちていた。この『のーと尾張名所図会』を書かれるのに、われわれの知らないところで、いかに努力されていたかが分かる。

 奥付を見ると『のーと尾張名所図会』の前編五が平成14年4月、後編最後の六が平成16年8月の発行となっている。後編全部を読み終わり、前編の六、七が残っていた。これを読み切って全13巻を“読破”したが、これまで残る2巻を出せないできた。

 そのころ、筆者は経営的に行き詰まり、何かにつけて大変な時期だった。平成17年末には廃業を考えるほどになり、これもできずに苦肉の策で、現在の新幹線高架内の「本陣街」へ移転することになった。それまでの柳橋角の「昭和ビル」には平成元年から17年いたことになるが、この勉強会を持てたのはそこでのことだった。

 『のーと尾張名所図会』の残り2巻を残したまま、これまで出版できずにきた。先生は読み終わって2年後に亡くなられている。当時の受講者から配布された資料を寄せ集め、何とかまとめたいとは思っていたが、2巻とも一部を欠いて完全なものにはならなかった。

 ところが、先ごろ書庫を整理していて、偶然、先生の書かれた足りなかった部分が出てきた。いつも先生は自分でコピーをして配布して下さっていたが、病気で倒れられて以降は原稿が送られてきて、こちらで準備することも多くなった。これまで欠けていたのがその中にあり、思わぬ形で完全につながることになった。

 随分遅れてしまったが、残りの2巻はこうしてできたものだ。あきらめていたものの、思わぬ形で完結できた。これは晩年の先生が最も力を入れられた大仕事であり、そのご努力を何とか形にすることができてうれしい。

 『尾張名所図会』は郷土史の基本的な史料である。しかし、ほとんどの人は必要な個所を拾い読みする程度でしかない。明治以降も様々な形で本にされているが、出版に当たった当人たちですら分業で行っており、隅から隅まで完全には読んでいなかったのではないか。

 それを先生は全部読み切り、しかも現地を訪ね歩き、こうして手書きで翻刻された。これまでにだれ一人としてできなかった快挙と言ってもいい。先生の考えでは図会と写真で構成する「いまむかし」風のものも考えられておられたのではないかとも思うが、残念ながらいまとなってはかなわぬ夢となってしまった。

 いっしょに勉強した仲間の多くも、すでに帰らぬ人となった。随分遅れてしまったが、これでようやく肩の荷を下ろせる。心血を注いで教えて下さった栗花先生に感謝するとともに、改めてご冥福をお祈りしている。 (13.8.15・舟橋武志「名古屋なんでか情報」111号より)

 

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