春日大社の摂社、若宮の「御祭(おんまつり)」は奈良に数ある年中行事の中でも最大と言える華やかなお祭りである。毎年12月15日から18日にかけて行われ、当日はこれを見ようとする多くの参詣者たちでにぎわう。奈良の1年を締めくくるに、まことにふさわしい大祭である。
この祭りは藤原氏の私祭として行われ、始まりは保延2年(1136)にまでさかのぼる。崇徳天皇のころ飢餓や病疫が相次ぎ、時の関白藤原忠通が災厄退散や五穀豊穣などを願って創始した。以来、祭日の移動などはあったものの、年とともに盛大になってきた。
現在の祭りは7月1日の「流鏑馬(やぶさめ)定」に始まり、約半年間の長きにわたって執り行われる。しかし、そのクライマックスは12月15日の「大宿所祭」、16日の「若宮宵祭」、17日の「若宮本殿祭」、18日の「後宴(ごえん)能」の4日間である。
特に17日は「松の下の渡り」と言われ、神木とされる影向(ようごう)の松の下で田楽、猿楽など各種芸能座による特芸の一くさりが演じられる。次いで御幣を手にした柏手公人(かしわでのくにん)をはじめ稚児、巫女や騎馬、随兵、将馬、太刀、薙刀、槍などが次々と繰り込み、総勢500人を上回る大行列は壮観と言う他にない。
今回復刻した『春日大社若宮御祭礼図』は全3巻から成り、寛保2年(1742)に出版されている。同書にはこうした祭りの式次第やその様子が多くの図版を使って巧みに描き出されており、これを見る人はきっと祭りの最前列に押し出されたような迫力に魅せられることだろう。
●『春日大社若宮御祭礼図』
B5版、全1巻、5000円+税(100制作)