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四国へ自転車で行ってきました
「四国オンボロ自転車ひとり旅」


 「おい、来年の夏、暇はできんか。四国の四万十川へサイクリングに行くことになったで、みんなでいっしょに行こみゃあか」

 その年の暮れ、仲間の一人からこう声を掛けられた。日本に残された最後の清流と言われ、四万十川には妙なあこがれがあった。が、現地にいるのはたったの2日間だけ、とか。せっかく四国まで行きながら、それではあまりにももったいないような気がしてきた。

 いっそのこと、こちらから自転車で行って、四国を一周してやろうか。心の中で次第にこんな悪だくみが頭を持ち上げてきた。そういえば、1、2泊ぐらいならまだしも、私用で3泊以上の旅はここ10数年、一度もしたことがない。

 毎日、時間に追い掛けられるように暮らしてきた。仕事や人間関係に振り回されてきた。そんな張り詰めた生活に、たまには空白の褒美をやってもいいのではないか。

 よし、行くぞ。何が何でも行ってやる!

 年が明けると、その思いはいよいよ強くなってきた。みんなに「8月は1ヶ月間、完全に休むぞ」「仕事をもらえるなら、その前後にちょうだいよ」などと、ことあるごとに言いまくった。そうすることによって自分自身を奮い立たせ、惰性に流れがちな日常を断ち切る魂胆であった。

 それにもかかわらず、いろいろ厄介な事情が重なって、目標の半分ほどにせざるを得なかった。50年以上も人間をやっていると、世間のしがらみが多すぎる。しかしその一方では、これでもよくぞ実行できた、との思いもないわけではない。

 四国へ駆り立てられたもう一つの動機、それは尾張一宮出身の〃知られざる奇人〃伊藤萬蔵さん探しだった。この人は全国の寺社に灯篭や線香立てなどの石造物を寄進し続けた奇特な人だが、八十八カ所霊場にも多いと聞かされている。その実状を自分の目で確かめてみたい。

 本書はそんな萬蔵さんの影も追いながら、昨年の8月5日から18日までの14日間、自転車で四国を走り回った体験記である。風に吹かれて気の向くまま、行き当たりばったりの自転車旅行。果たしてどうな展開になることやら……。

 −−以上が前書き。郷土出版社から「四国オンボロ自転車ひとり旅」と題して出版してもらいました。本体1400円。自転車で行ったら旅はこんなにも楽しいものとなりました。以下はその目次です。

 第一日 夢の四国へ! いざ、出発
   一、解き放たれた犬となれ
   二、今日はどこまで行けるやら
   三、あんたはエライよ、まったく

 第二日 道草するのも旅の楽しみ
   一、跡形もなし、淀君の淀城
   二、四国は想像する以上に遠い
   三、四国第一夜、高松の夜はふけて

 第三日 やってやれないことはない
   一、さあ行くぞ、四万十めざして
   二、四国山地、立ちはだかる
   三、謎の人物、伊藤萬蔵さんとは
   四、今日こそふとんの上で寝たい

 第四日 四万十川の風に吹かれて
   一、あこがれの四万十を走る
   二、秘湯の食卓に、四万十の幸
   三、足で考える?「新川みのじ会」

 第五日 四万十川の流れのように
   一、楽しみはヒルメシにあり
   二、河口へ、ペタルも軽く
   三、中村こそ本物の「小京都」

 第六日 やっぱり一人旅はいいもんだ
   一、野中兼山を知ってるか
   二、「なごやん」よ、お前もか
   三、楽しみは遅れてやってくる

 第七日 坂の向こうに新しい世界
   一、四十三番で「萬蔵さん、やーい」
   二、伊予の小京都、大洲に遊ぶ
   三、いかん、また野宿の恐怖が……

 第八日 はるか、佐田岬への道
   一、イセエビ、食えるか食えないか
   二、大吟醸枕に、寝転べば青い空
   三、いい人たちに、いいごちそう

 第九日 泣き笑いだよ、自転車の旅は
   一、ブレーキ命「大成の逆落とし」
   二、びゅんびゅん走れる湾岸道路
   三、「ういろ」をばかにすると怒るよ

 第十日 お城訪ねて「ごめんね旅行」
   一、松山は面白いぞなもし
   二、宿題かかえて、えんやこら
   三、特別講座、始まり始まり
   四、ええっ、そんな景気のいい話が

 第十一日 めざすは高松、健康ランド
   一、瀬戸内側は霊場ラッシュ
   二、大師はなぜ霊場を開いたか
   三、それ行けやれ行け、ゴールまで

 第十二日 楽しみは四国最後の夜
   一、白砂青松の地で〃お袋〃に会う
   二、お大師さまは助けてくれない?
   三、ああ、これが徳島の夜

 第十三日 当て事とフンドシは前からはずれる
   一、大橋開通の余波、ここにも
   二、有り難う四国、心やさしき人よ

 第十四日 四国旅行の大きな〃おまけ〃
   一、都会を走るは夜間に限る?
   二、いぶし銀の町、近江八幡を訪ねる
   三、旅の終わりが新たな始まり

 旅を終わってからしばらくの間、こちらで飲むビールがまずく感じられて仕方がなかった。逆に言うと、炎天下で汗水たらした後に飲んだそれは、同じビールでもまるで違うのどごしだった。人間もやはり動物であり、動き回らなければならないようだ。

 「お前、意外と若いなあ。おれにはとてもそんな真似できないよ」

 今回の旅を同期の友人に話したら、真っ先に出てきたのがこの言葉だった。自転車の旅などはだれにもでき、決して特別のことをしたわけではない。ただ飛び出すのに、ちょっとした決断ができるか否かの違いだ。

 事実、ぼくも決行するまでにはかなりの勇気がいった。しかし、いまは思い切って実行して、本当によかったと思っている。心に付着していたサビまでが取れていったような気持ちさえしてくる。

 今回の旅はまったく無計画の、行き当たりばったりのものだった。風に吹かれるままに、山の緑に魅せられ、潮の香に引き寄せられて。これも自分の足の延長のような、自転車ならではの旅だったからか。

 来てみると四国も大陸のように広く、歴史的にも文化的にもなかなか奥深いものがある。ほんの一部を垣間見たに過ぎないが、それでもぼくにとって得るものは大きかった。テレビや新聞、その他から多くの情報は伝えられてくるけれど、自分の耳目で見聞するものが一番確かで信頼できるような気がする。

 本書をお読みになって、一人でも多くの人に「おれもいっちょうやってやろうか」と思っていただけたら、こんなうれしいことはない。それは別に四国でなくたって構わない。例え一日か二日の、ごく小さな旅であってもよい。日ごろ乗り慣れた自転車を引っ張り出してきて、ちょっとそこまで、そして、もっと遠くへ行ってみようではないか。

 最後に本書を出していただくことになった郷土出版の高橋将人社長の友情に心より感謝したい。執筆に当たっては岩月正直東海支社長から有益なアドバイスをいただいた。また、現地で出会った沢山の方々の親切も忘れられない。ここに厚くお礼申し上げる次第である。(「おわりに」から)

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