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名古屋弁講座 その30

「のぼくる」

「のぼる」+「くる」、「くる」は強調の言葉

 半年ほど前、知人がリストラにあった。定年をわずか1年後にひかえてのこと。が、本人は意外に明るく、先ごろ会ったら庭師をめざして稲沢の植木センターで試験を受けてきたとか。

 「子供のころよー遊んだで、木にのぼくるのは得意中の得意。握力テストもばっちり。第二の人生はオテントサマと緑の木に遊んでまうことにするわ」

 もういっぱしの庭師(ガーデンデザイナーと言うんだそうな)になったような話ぶり。試験当日の様子を聞くと、受験者も結構多かったらしい。が、彼はすでに合格できるものと決め付けている様子だった。

 「面接試験もばっちり。しゃべくりまくって、自分のやる気もどえりゃー売り込んだ」

 話し好きなことは仲間内でも有名だ。が、この言葉を聞かされて、こりゃいかんと思った。

 「おいおい、えーか。庭師には無口の方が向いとれせんか」

 「なんで? 面接試験にしゃべらずにいて、どーする。リストラされてしゃべるあゃーてもなかったもんで、めちゃくちゃしゃべくったったがね」

 「それがいかんっちゅーの。のぼくったはえーが、落っこちてまうかも……」

 案の定、結果はぼくが心配した通りになった。知人にやり手の庭師がおり、ちょうどそのころ、本を買いに来てくれた。この話をしてみたら「しゃべるのはいかん」のひとこと。

 「口が動くと手が動けせん。使ってくれと言って来る人に『そーじは好きか』と聞くと、へーきで『嫌い』と言う。庭師はそーじが仕事で、みんなが考えとるほど、あまにゃあ」

 「第二の人生? としょりは使いもんにならん。中には通信教育で勉強したで、使ってくれと言ってくる人もいる」

 仕事にはやっぱり適性というものがある。木のてっぺんまでのぼくったはいいが、話し好きが無口でいなければならないというのも、考えてみれば残酷な話である。落ちたのは彼のためにも、よかったのかもしれない。

 木などに「登る」ことを名古屋では「のぼくる」と言う。「くる」が付くことによって「登る」行為が強調される。手に力を入れて、すがりつくようにして、よじ登る様を表す。だから、「がけをのぼくる」とは言っても、「山へのぼくる」「階段をのぼくる」とは言わない。

 この「くる」は「繰る」から来た強調の接尾語。「しゃべる」+「くる」で「しゃべくる」、「えどる」+「くる」で「えどくる」、「ほじる」+「くる」で「ほじくる」など。名古屋弁には「くる」の付く言葉が多い。

 『東海の方言散策』で著者の一人山田達也先生は、この「くる」を「狂う」と見ておられる。「『激しく、強く、メチャクチャに』など、もとのクルウの影があって、強調的な感じが強い」。これだと「登る」+「狂う」で一層強調されてくる。また、この「くる」を「蹴(け)る・ケタクル」などの「タクル」とも関係があるかもしれない、とも書いておられる。

 つい先日、庭師になりそこねた彼から意外なことを聞かされた。若いころは無口で人と満足にしゃべれず、こっそり話し方教室に通ったことがあるとか。「まさか、うそだろ」と耳を疑ったが、「ほんと、うそでにゃあ」と真顔だった。

 この彼が口べたで、人見知りだったとは。とても信じられない。話すのが苦手なぼくは思わず聞いてしまった。

 「その先生、まだご存命? いまもやっておられたら、ぼくも通いたいわ」

 


 

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