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名古屋弁講座 その24

「しりこぷた」

こんな面白い言葉、ある?

 こんな言葉はもう使われていないだろうか。ぼくたちの子供のころは「尻」のことを「しりこぷた」と言っていた。いまは使われないどころか、方言が標準語だった江戸時代の人でも、これは知らなかったかもしれない。

 「しりこぷた」は「ヘリコプター」に掛けてある。当時、ヘリコプターはめずらしかった。たまに飛んでくると、夢中だった遊びもやめ、見上げて騒いだものだ。

 昔の人は「尻」のことを「けつこぶた」と言っていた。「けつ」+「こぶ」+「た」。尻のふくらみは一種の「こぶ」であり、それに強調の接尾語「た」が付いてできた言葉だ。これがもととなって、ついには「シリコプター」にまで発展した。

 人間の体はこの「た」を付けて呼ばれるものが多い。「あご」は「あごた」、「ほお」は「ほっぺた」、「もも」は「ももた」。とは言っても「まぶたた」とか「くびた」などとは言わないから、多いというほどのことでもないか。

 ちなみに、「目」強調して言うととは「めっくりだま」、「首」は「くびたま」あるいは「くびったま」となる。

 接尾語の「た」の付く言葉は他にもある。例えば、昆虫や動物をぞんざいに呼ぶとき「雄」のことを「おんた」、「雌」のことを「めんた」と言ったりする。これは「た」が「つ」になまって「おんつ」「めんつ」にもなったりする。

 「いたっ!」「いたい!」と言うとき、つい言ってしまうのが「いたた!」。これも「た」が付く。よけい痛い感じが出てくる。

 高校生の彩さんは社会活動の一環として老人ホームへ行ったそうな。この日は近くの公園へ外出するため、車椅子に乗ったお年寄りが玄関に集まってきていた。職員の一人からゆっくり押してゆくように指導を受けた。

 「そんなら、あなたにはよこたを頼むわ」
 「ええっ、横田さん? 横田さんってどなたですか」
 「横田さん? 違う、違う。よこの人。いまあなたのすぐそばにおりゃーす人」

 彩さんは早くも社会勉強ができてしまった。「よこ」のことは「よこた」だ。「よこ」には「た」を付けるが「たて」には付けない。

 老人ホームは名古屋弁が標準語だ。職員といえども名古屋弁でないとやってゆけない。いいことだ。

 エリートと言われる弁護士の一人も「おじいさんと遺産相続の話をするときは、やっぱり名古屋弁でなくっちゃ」と言っていた。ただでさえ堅苦しいのに、かしこまった言葉でやっていたのでは話にならない。

 そういう意味では市民と接する窓口だけでなく、お役所も全職員が名古屋弁で仕事をしてもらいたい。もちろん、採用試験には名古屋弁の筆記テストと会話の実技が大きなウエイトを占める。そうなれば、ぼくの書いた本もちょっとは売れるようになるのだが……。

 「しりこぷた」からとんでもない話になってしまった。考えてみれば「しりこぷた」「けつこぷた」は面白い表現だ。もう一度、復活を望みたい。すると、病院で若い看護婦さんの口からこんな言葉も飛び出してきたりして。

 


 

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