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名古屋弁講座 その16 | |
「たいだい」 |
「態態」は「わざわざ」か「たいだい」か「たいだい」と書くと何のことやらさっぱり分からないかもしれない。名古屋人の発音をなるべく忠実に文字にすると「てゃーでゃー」。ほら、これなら分かる人も多いでしょ。 「おみゃー、こっすぃーやっちゃなあ。車で行くというのに免許証、てゃーでゃー忘れてきたろー。運転したにゃーで」 気の合った友達と旅行に出かけるとき、運転することになる人は大変だ。いまに助手席や後ろでビールを飲み出すに決まっている。運転役になりたくないので「てゃーでゃー」忘れたくもなってくる。 「わりぃーねえ。てゃーでゃー来てちょーでゃーたに、いま留守しとって。まーひゃーきゃーてくるはずだで、よかったらちょっと待っとってちょーすか」 「たいだい」を使って訪問者にこんな応対をしたりもする。「まーひゃー」は「もうじき」の意。名古屋人は「はい」を「ひゃー」と言うことも多く、「はい」(蝿)は「ひゃー」とか、ちょっとやかましさを強調して「ひゃーぶんぶ」、「はいちょう」は「ひゃーちょう」となる。もっとも、いまどき「はいちょう」(蝿帳)と言っても、わっきゃー人は見たこともにゃーで分っかれせんわね(ご存じない人は『広辞苑』ででもいっぺん調べてちょ)。 もっとも「はいちょう」には「拝聴」という言葉もある。だから名古屋人は講演会などで「ただいまは貴重なご意見をはゃーちゃー致しておりまして……」などと言ったりすることもある。 この「たいだい」がそうであるように、名古屋弁は文字で著しにくい。母音が二つ重なると複雑な発音になるからだ。「たいだい」の「たい」は「a」と「i」が重なり、英語の「 」に近いものとなる。 まっとうな名古屋人に出身地を聞くと「愛知県」と言ってくれるが、現実には「あいちけん」とは言っていない。それを文字にするのは至難の技で、筆者などは「あゃーちけん」がいいか「えゃーちけん」の方がいいか−−いや、ひょっとすると「ぇあゃーちけん」と書いた方がより正確ではないかと悩んでしまう。われわれはそれくらい難しい発音を平気でやってのけているのである(てゃーしたもんだ)。 ところで「たいだい」は一つに「わざと」とか「故意に」、もう一つに「わざわざ」とか「折角」の二通りの意味がある。先ほど例に出した「てゃーでゃー忘れた」は前者で、「てゃーでゃー来てちょーでゃーた」は後者。どちらかと言うと前者の意味で用いられるケースの方が多い。 「いかんがや、てゃーでゃー負けやがったなあ」 テレビで大相撲を見ていると、時としてこんなことを言いたくなるような取組もままある。週刊誌が裏でされているとかという星の売買をあれほど書きまくっているのに、相撲協会がまともに取り上げようとしないのも不思議だ。目の前で無気力相撲を見せ付けられると、週刊誌の報道が必ずしもデマばかりとも思えなくなってくる。 さてこの語源についてだが、「たいだい」は「わざわざ」の「態態」から来ている。名古屋人は頭がよすぎて「たいだい」と音読みしたのか、あるいは逆で「態態」が「わざわざ」とはとても読めなかったのか。いずれにしろ、この地方でしか使われていないめずらしい言葉である |
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