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名古屋弁講座 その7

「つうろく」

 

バランス感覚を大切にする名古屋人

 普通「うつろくする(している)」とか「つうろくしない(していない)」という形で用いられる。「似合う」「つり合う」といった意味。名古屋人はこの「つうろく」を使うことによって、バランス感覚を何よりも大切にしてきた。

 「あそこの家でいただく抹茶はええなあ。家や庭によーつうろくしとって。雰囲気にぴったりで、よけうみゃあわ」

 しっくりした和室に、落ち着いた日本庭園。いかに立派な家でも、イスに腰掛けての抹茶では、「つうろく」しているとは言いにくいでね。そんなところで飲むなら、むしろコーヒーをいただきたい。

 「こりゃ、桜が見事だなあ。ええ枝振りの松もあるし。これで梅があったら赤タンがそろうがや」

 こんな話ではせっかくの抹茶に「つうろく」しない。もうちょっと話題も風流にいきたい。

 この「つろく」が最も威力を発揮したのが縁組みのときだ。昔は家柄などがおたがいに「つうろく」しているかどうかが大問題だった。やり手バアさんが縁談を持ってきてくれても、まず家柄や職業など、本人よりも全体の「つうろく」を考えなくてはならなかった。

 「この娘さんなら学歴はあるし器量はえーけど、うちみてゃーなとことではちょっつうろくせんじゃにゃーの」

 「なに言っとりゃーす。いまでこそ向こうは威勢がえーかもしれんけど、おじいさんの代までは小作だったがね。それに比べりゃ、おみゃーさんとこは先祖がお侍さんだで立派なもんだわ」

 こうまでさかのぼられては、どっちがえらいか訳が分からなくなってくる。さすがいまでは家柄などは問題にされなくなってきているが、それでもやっぱり根底にはないように見えていても実はあったりして。口にははっきり出さなくても「つうろく」のバランス感覚は生きている?

 「つうろく」がとれておたがいに「えー話だなも」となると、今度は両家のお見合となった。このお見合いにはビミョーな駆け引きがあって、なかなかシビアなものだったらしい。いまでもそうかもしれんけどね。

 先日お会いしたお年寄りの話では、女性の家へ男性(本人)とその親が出向くならわしだったとか。すると女性がお茶を運んできてそれとなく顔見せすることになるが、彼女−−といっても、もう八十に手が届くほどの人だったが、その家ではご飯まで出したそうだ。もしだめなようなら、はしを手にしてもらえなかったとか。

 「おじーさん、どうするかと思って障子の陰から見とったら、すぐにとってうまそうに食べてくだれた。うれしかった」

 おじいさんに聞くと「そんな昔のこと、てれくさて言えすか」と笑いながら、こんな内幕を披露してもらえた。

 「あのときは2きゃーもしっぴゃーしとったで。わしはご飯が出たら、初めから食べるつもりでおった」

 いいなあ、ほのぼのとした話で。「つうろく」のとれた、お似合いのカップルだ。

 「社長、まーちょっと給料あげてまえんきゃあ。こんなに一生懸命はたりゃーとるのに、給料がどーもつーろくしとらんよーに思えてしょーがにゃーけど」

 「おとーさん、お小遣いは稼ぎにつーろくさせてよ。こんなに使われちゃ、やってられないわよ」

 最近は「つうろく」にもあまり出番がなくなった。バランスを保とうとするいい言葉であり、これからはこうやって折に触れて使っていただきたいものだ。

 


 

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