徳山村は民話のふるさとだった！

　長い年代にわたって語り継いできた民話は村の貴重な文化遺産である。せっかくの記録が舌足らずの形で後世に伝わることはおしい。ここでは昔話はしばらくおき、せめて主だった伝説の一部だけなりとも、できる限り村の古老の語った内容を忠実に記録しておくこととし、故郷消滅の世代に巡り合わせた者の務めでもあろうと考え、拙文を顧みないでつづってみた。

　ここに収録したものはすべて村に事跡のある、実在した人々の事実に基づく物語である。しかし、伝説であるからには世代ごとの口伝えであって、正確な史実に則したものとは言い難いところもあるかもしれない。山家の炉端で焚き火を囲み、どもりどもり語る老人の談話を聞く軽い気持ちで読んでいただきたい。江口義春（「はじめに」より抜粋）