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■【追録】尾張藩幕末風雲録

ー著者の渡辺さんに聞くー もっと知られてもよい、尾張藩の活躍

ここに2冊の本を書かれた渡辺博史さんとの話を収録しておきたい。内戦を避けるため周旋に命をかけた尾張藩士らの行動は実に見事だった。われわれ名古屋人はもっと足元の歴史を知り、誇りに思ってもよい(聞き手 店主・舟橋武志)。

「尾張は幕末史になぜ登場してこないのか」

――幕末というと薩長や新撰組、坂本龍馬など、派手に立ち回ったものばかりが話題にされます。東京の歴史好きの知人などは「尾張藩はあの大事なときに何をやっていたのか」とからかってきたりしますよ。

 「確かに水面下での行動であり、はた目には分かりにくいかもしれません。しかし、慶勝公を初めとする尾張藩士らの活躍がなかったら、あのような御一新は迎えられなかったはず。尾張藩は幕府と朝廷との間にあって、いかにソフトランディングができるか、必死になって働いていました。それでも鳥羽・伏見の戦いが起きてしまいましたが、そうなると今度は一転して青松葉事件でまた次の手を打ちました」

――事情が分かっていてそれを素直に受け入れた渡辺新左衛門らも立派でした。手痛い犠牲者を出してしまいましたが、瀬戸際でいかに決断するか、リーダーの器量が問われることになりました。

 「慶勝公は断腸の思いで決断されたと思います。もう赤報隊は美濃まで来ている。いまに官軍も来る。そんな切迫した状況の中で、みんなの意見をいちいち聞いてなどといった、そんな悠長な時間はありません。あのクーデターによって藩論を一挙に尊王にまとめることに成功しました」

――もしも尾張が二つに割れたままでいたとしたら、藩内どころか内戦にもなっていたかもしれませんね。

 「このとき、御三家筆頭という家柄の持つ意味は想像以上に大きかったと思いますよ。事件後、慶勝公は城下の印刷関係者を集め、書き上げた文書を使者に持たせ、東海道や中山道筋の諸藩などに朝廷への恭順を勧めました。これは朝廷がする以上に説得力があったと思いますよ。官軍が東海道をスムーズに行けたのも、江戸の無血開城も、このおかげと言ってもよい」

――さらに別の手も打っていましたね。

 「そうです。中山道から来た岩倉具定興卿(具視の子)の一隊を江戸の尾張藩邸に迎え入れました。また、江戸城を空っぽにすると同時に、幕府機能の温存にも務めています。奉行所、貨幣鋳造所などの組織や機能も守らせたりしたのも、新しい時代に生かすための優れた配慮です」

――その点、薩摩はテロリストと言ってもよいほど。合戦の口実を引き出すために江戸市中に放火するなど、乱暴狼藉を働いてきたりもしています。

 「尾張の気配りもあって江戸までの進軍は無事でしたが、それから後の越後や東北などは悲惨なものとなりました。『勝てば官軍』とは言いますが、決して誉められる言葉ではありません。あの有り様を見れば、いかに尾張藩の配慮が大きかったかがよく分かると思います」

――テレビやドラマで幕末が取り上げられても、御三家筆頭の尾張藩はまったく出てきません。リーダーだった慶勝はもっと知られてもよい人物だと思いますが……。

 「私の書いた2冊の本がその一助にでもなればうれしい。そして、もう一人をあげるとすれば、慶勝公も影響を受けた大久保一翁です。幕府側にありながらこの人も先見性に富み、考え方は最後までぶれることはありませんでした」

――いまの世界情勢を見ても、相手をたがいに認め合う姿勢が求められています。朝廷と幕府の双方に軸足を置き、左門をはじめとする尾張藩士たちはこのために奔走しました。「尾張は何をしていたか」と思われがちですが、その果たした役割は大きく、われわれはもっと自信を持っていいのではないか。 

 「尾張は信長や秀吉など戦国時代が話題の中心とされがちですが、歴史の節目節目で大きな役割を果たしてきました。古くは継体天皇を支援して歴史の流れを変えましたし、壬申の乱や承久の乱でも尾張が勝敗のカギを握っていました。幕末がまさにそうですよ」

――それなのに新政府ができると、さっと身を引いてしまっています。このへんも何事にも謙虚な名古屋人らしくもありますねえ。

 「引き際も見事なものでした。慶勝公や田宮をはじめとする多くの者たちが猟官に走ることもなく、いさぎよく隠退してしまいました。清廉潔白で知られ無欲だった林左門などはその好例です。だからこそ後世に余計、尾張藩の功績が語られなくなるわけでもありますけど……」

――いい本を書いていただきました。本はわれわれ名古屋に住む者にも勇気を与えてくれることになると思います。ありがとうございました。

 

 

 

 


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