緊急対談・男の生き様を問う
筧 「男一匹、昔なら侍、見上げた根性だ」
鬼頭 「好きだったからこそ、道一筋に生きてきた」
聞き手・筧 鉱一(大倉流大鼓方)
平成23年5月上旬、入院先の病院にて
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本音で話し合う鬼頭嘉男(右)と筧 鉱一 (この写真は退院後のもの、平成23年5月下旬、嘉男宅にて) |
井筒屋嘉助という家
筧 ま、おまえさん、あの、かけてちょうよ。
鬼頭 はい。今日はわざわざこんなところに来ていただきまして。
筧 いやいや。あのよ、今日昼からな、打ち合わせに行くんだ、本屋に。おまえさんの前科を調べあげて、録音して、証拠取って、それを落として活字にする。
鬼頭 はああ。ややこしいなあ。すいませんなあ。
筧 わしがおまえさんの悪いとこ全部問いただす。
鬼頭 ほいで、そういうことを書くわけですか。
筧 鬼頭嘉男がこういうことをしゃべった、という証拠になるんだ。おまえさんの口から、ほんとの話を聞き出す。そういうつもり。
鬼頭 なんでもぼけて忘れたことがようけあって、失礼することもありますが。
筧 ほんだで、はよ聞いとかないかん。
鬼頭 そりゃ、はよ言っとかないかん。
筧 おまえさん目つぶったら、この世の中から、鬼頭嘉男の家はなくなるんだ。まあ、おまえさんとこ、途絶えてまうもんで。
鬼頭 ええ、ええ、うちはね。ま、そうだけど、よくここまで続いていただきましたので。
筧 途絶えてまっても、仕方ないんだ、こりゃ。今からおまえさんに子ども作れ言ったって、できいせんがや。
鬼頭 いや、まあ。
筧 ほだろ。
鬼頭 わしの子どもは死んでまったもんだで、いかんなあ。
筧 ほんだで今日な、昼からな、駅の近くにね、郷土史ばっかりを扱っとる本屋があるんだ。一宮の人でね、舟橋という名古屋タイムズにおったその人に、わしは前にも本作ってもらった。
鬼頭 そうですか。
筧 それに、今度のおまえさんとこの関係の、かぎ、芳、嘉助から豊七、凖平、嘉男、それから死んだ家族の写真も入れたい。死んだ娘の写真もな。娘はどういう名前だった? よしこか。違うな、よしというのは母親の名前だったな。死んだ娘というのは? 結婚して途端に死んだ。
鬼頭 ああ、あれよお、事故で死んで。
筧 新婚旅行で。
鬼頭 ええ……。
筧 おお、おまえさん。どういう薄情だ、自分の娘の名前まで。ぼけてまって。あの、ほんでそれの写真。
鬼頭 交通事故死だった。
筧 そう、それの写真も入れて、鬼頭嘉男というやつが、大正から、ここまで生きとったと。で、まあ、こんで死んだと。で、わしは、坪内(逍遙)にもつながり、毛利にもつながり、織田にもつながり、あとなんだった、あとどこだったかな、まあとにかく、相当な家だったんだ。
鬼頭 ええ、まあ。
筧 井筒屋嘉助は。
鬼頭 嘉助はね、今の何屋だ。あの頃は何屋っていうんだ。
筧 ああ、両替商だ。だで、両替商で、金があった。
鬼頭 金があった。
筧 金もっとるもんで、みんながアリのように寄ってきて、鬼頭家と親戚になったんだ。鬼頭家とな。で、おまえさんとこは商人だけど、侍やなんかの血筋とだいぶ混ざっとる。
鬼頭 親戚があるもんでな。
筧 そう。そんで、そういう本を作って、宝生流の人だとか、囃子方や鬼頭嘉男を知っている人たちに配ろうと思っとる。
鬼頭 ああ、やってもらえたらな。
筧 とにかくわしは、おまえさんがまだモノが言えるうちに作りたいんだ。
感情を内に秘める「鬼」
筧 で、今からよう、あんた問いつめるけど。
鬼頭 うん?
筧 93か、今。
鬼頭 92。7月で93になる。
筧 生年月日、いつ?
鬼頭 大正7年7月29日。
筧 嘘じゃないな。
鬼頭 間違いない。
筧 小学校は。
鬼頭 久屋尋常小学校だ。
筧 はとまめか。
鬼頭 ふん?
筧 はとまめ、カナリアか。教科書。
鬼頭 はなはとまめ、だ。
筧 ああ、はなはとまめか。わしらは、さいたさいたさくらがさいた、だ。
鬼頭 ああ、さいたさいたさくらがさいた、というな。
筧 わしらと時代が違うんだ、おまえさんは骨董品だもん。
鬼頭 ああ。
筧 でな、愛知一中(愛知県第一中学校)行くんだ。校長は日比野寛か? マラソンの。
鬼頭 日比野寛は先代の古い校長だ。わしの頃はね、ええと、わしの入った頃の校長の名前までは覚えとらんなあ。寛は愛知一中の歴代の校長のなかでも、最も有名だ。
(以下、略)
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