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■円空の隠し文
「分かる人には分かってほしい」
円空が伝えたかったメッセージとは

 昭和47年(1972)、名古屋の荒子観音にある多宝塔で、住職の日置即全師は「大悲千面菩薩」と墨書された50センチ角の木箱を発見されました。蓋は竹釘で固定されていたので大工さんに開けてもらうと、小さな仏像が沢山出てきました。箱は仏像を納めた厨子だったのです。

 当時の新聞には1020体の円空仏を発見と書かれていました。ところが蓋を開けた大工さんの話によると、そのとき仏像を数えた日置即全師は「1024体入っていた」とお話になったそうです。新聞には数字を丸めて発表されたらしいという話を朝日カルチャーセンターの円空講座で小島梯次先生からお聞きしました。2005年12月のことです。

 私はこの1024という数値に驚き、尋ね直してこの事実を確認しました。この数値は偶然にできたのではないと思ったからです。

 1024は2の10乗の値で、電子計算機(パソコン)の原理に使われている二進法の基本数字の一つです。少し前のデジタルカメラのメモリーは256MBとか512MBでしたが倍々で容量が増加し、1024MBになってからはGE(ギガバイト)表示になりました。このように1024は技術的に意味がある数字です。円空はなぜこの特殊な数の仏像を作ったのか、不思議に思いました。しかし、円空とコンピューター言語の組み合わせなどあり得ません。

 まず、千体も厨子に収めるのは容易でなく、あらかじめ計算して素材を用意する必要があります。一つの角材を等分して行くと、自然に1024になります。最初はこうして自然にできたのかと思いました。しかし、仏像を見ると全部が同じ大きさではないので、円空は苦心して1024体を入れたに違いないのです。

 厨子には「南無大悲千面菩薩」と書かれ、裏面には成り立ちを説明する歌が書いてありますが、片仮名交じりの文なので意味は何通りも考えられ、真意は何か分かりません。歌の他にも意味不明の文言が書かれていて、何か隠されている様子が分かります。

 荒子観音には住職が書き残した『浄海雑記』という古文書があって、この中に円空は十二万体の仏像を作る発願をしたと記されています。そこでこの厨子は十二万体の造像発願と関係があるかもしれないと思いました。

 問題の厨子は多宝塔の須彌壇の脇に置かれていたと言われています。ここは寺宝の収納庫です。厨子は苦労して作った大事なものに違いない、しかし、人目に触れないように隠されていたらしいと分かります。

 何かが隠されていると思うと、それは何かと知りたくなるのが人情です。残された状況を調査すると面白いものが見つかるかもしれない。まずこの不思議な数字は何を意味するのか、読み解いてみようと思ったのがこの研究の端緒です。

 千面菩薩の初期データは『荒子観音の円空仏』に依りました。沢山の小さな仏像は厨子から外に出されると、色々な理由で歳月とともに数が変化します。墨で書かれた文字も薄れて行きます。すると円空が千面菩薩に込めた意図が何であったかも一緒に消えてしまいます。

 文字や数字に円空が隠した願いがあるならば、今直ぐ消えないうちに解明しておかなければならない。これは疑問を持った自分がやるしかないと思いました。

 さて、何が隠されているのか模索しますと、考えが堂々巡りをします。幸い現代はパソコンを使って自問自答ができるので、速度は遅くても推理の筋道は明確になるし、修正もできます。本書はこのようにして作成しました。長文になりましたが、話の筋は容易にフォローしていただけると思います。

 いざ始めてみると1024の単なる数字の解明で終わることはできず、解明した意味を立証するためには、円空の謎を次々と解くことが必要になりました。謎解きはまず実物を見ること、それが背銘の文字でも仏像でも自分でよく眺めることが必要です。それが制作された所、置かれた場所も観察が必要ですが、円空仏の場合、これがなかなか難しいことです。

 本書では円空仏の簡単な写真と名称を挙げていますから、展覧会や図録などでまず写真を見て、さらに実物を現場でご覧下さい。すると改めて違った感想を持たれると思います。それが私流のやり方であり、謎解きの極意と信じています。

 ところで、この研究は表意に隠された裏意を読む試みですから、推論を進めると通説になっている意味(表意)とは必ず異なる結果をもたらします。通説を築き上げてきた諸賢がこの結果をご覧になると、先人の努力を無視するけしからぬ所業であるとお思いになるかもしれません。

 しかし、円空は巧妙に表裏一体の文章を作る隠し文の達人です。裏意があったとしても、表意が間違いということにはなりません。円空の文は表でも裏でも意味がある解釈ができるように仕組まれています。

 なぜそう言えるのかは本文をご覧いただきたいのですが、一言で言えば、江戸時代という閉鎖社会のために、表裏ある文にせざるを得なかったからと言えるでしょう。つまり、表の論理だけではうまく暮らせないので、如何に裏の論理を合わせて行くかを考えた時代です。華美が禁止されたら、着物の裏地にぜいたくをしたそうです。

 円空はそのような時代を生きた達人ですから、表面だけの解釈では偏っているかもしれないのです。この研究は円空の人物像を明らかにするために、あえて裏意を読んでみようとする試みなので、ここを理解してご無礼をお許し下さるようお願い申し上げます。(「まえがき」より)

 

 


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