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■海軍艦船要覧

軍事史研究家が独力でまとめ上げた労作
渡辺博史著『海軍艦船要覧』

 これを著された日本海軍の研究家、渡辺博史氏は先に同じ題名で『海軍艦船要覧』を自費出版されている。今回は畏友の永井久隆氏の協力を得て、それを大幅に改訂増補された。編纂に当たっては前回に見られたもれを補い、誤っていた個所を訂正し、さらには海軍所有の雑役艦や民間からの徴用船などの小艇も充実させている。

 本書で取り上げられている期間は日露戦争から第一次世界大戦を経て、太平洋戦争の終結に至るまで。この間に登場した日本海軍のあらゆる艦船について詳しく拾っている。一人の研究家が独力でこれだけのものをまとめ上げられたことに驚嘆せざる得ない。

 「艦艇」として収録れされている艦船には砲艦・駆逐艦・潜水艦・水雷艇などが種別で時代順に紹介され、以下同様に、敷設艇・哨戒艇・掃海艇などの「特務艦艇」や、特設巡洋艦・特設航空母艦などの「特設軍艦」、特設工作艦・特設測量艦などの「特設特務艦」、さらには「特設運送船」「特設病院船」に至るまで、日本海軍に属した艦船が分野別に記録されている。

 今回は特にこうした正規の艦船だけではなく、海軍所有の雑務艦や民間から集めた徴用船の補充にも力が入れられている。これには愛知県図書館での「日本船名録」との出会いが大きく、これが手がかりとなって他館に所蔵されている資料も入手できたという。ここまで採録されるのには大変なご苦労だったようだが、海軍史の研究一筋に打ち込んでこられた渡辺氏ならではの執念が感じられてくる。

 本書は艦船のデータでありリストでもあるが、そこには生きた人間が乗っていた。その関係者などにとっても、記録として残された意義は大きかろう。渡辺氏は本書の「あとがき」で「戦役に従事され、戦没された将兵、船の乗員の方々の鎮魂と、生き残られた方々の平安を祈ってやみません」と結んでおられる。本はA5判・586頁、定価6000円+税(100部発行)。

 

艦艇記録研究の原点となる一冊
サポートされた永井氏の「編集後記」より

 著者の渡辺博史氏は、現在81歳。日本海軍の軍事史研究家であり、既に多くの著作を持つ。古今東西の古典や幕末期尾張藩の歴史にも精通し、その博覧強記ぶりは誰しもが認めるところである。

 大病を得て、生命の有限なるを自覚されてからは、海軍軍事史に関する調査研究の成果を後の世代に遺すことを使命とされ、以前にも増して、研究成果を次々と発表されるようになった。

 ここ1年、渡辺氏は海軍艦艇に関する調査記録の取りまとめに全力を傾注されている。昨年から刊行が始まった「護衛部隊の艦艇」シリーズと「壮絶・決戦兵力 機動部隊」シリーズがそれである。個別艦艇について、艦ごとの活動記録と人事記録を編年的に整理したもので、既に5冊を出版され、その累計頁数は実に2400頁近くにも及ぶ。病身にもかかわらず、研究意欲はますます盛んで、引き続き続編の執筆に情熱を燃やしておられる。

 そうした渡辺氏の一連の艦艇記録研究の原点ともいうべきものが本書「海軍艦船要覧」である。日本海軍の艦船を網羅的に通覧できるデータブックとして、本書の初版には大きな反響が寄せられたが、自家本としてごく僅かの部数しか印刷されず、配布先もごく限られたものであった。

 このため、この本のデータを見るためには、これが納本された公共図書館ないし専門図書館(図書室)まで足を運ばなければならず、一般にも入手できることが強く望まれていた。今般、こうした声に応えて、平成18年発行の自家本に著者が加筆修正を加え、改版のうえ再刊することになったものである。

 本書の特長は、我が国海軍の艦艇から民間徴用の特殊艦船、雑用船に至るまで、あらゆる艦種の海軍艦船を、時系列に沿って網羅的に確認できることにある。読者は、本書に記載された海軍艦船の艦種、類別等の変遷とこれらに係る個別艦船のデータを通じて、日本海軍の黎明期から終末期に至るまでの艦船の展開過程を、具体的に知ることができる。

 特筆すべきは、本書に記載されている海軍の艦船が、艦艇に止まらず、広く民間徴用の艦船までをも含めている点である。民間徴用の艦船の動員は、実に大量かつ多様であって、本書記載以外にも多数の民間徴用船があるとみられるが、本書にリストされた民間徴用の艦船を見るだけでも、我々は近代戦における総力戦というものがいかにすざまじいものであるかを実感するであろう。

 太平洋戦争の戦局の悪化に伴い、僅か十屯にも満たない船まで雑用船として徴用されているのである。本書のデータは、先の戦争で、ありとあらゆる種類と規模の艦船が総動員され、その多くが戦没という過酷な運命を辿っていったことを明らかにしている。

 本書の再デビューに当たっては、初版での編集や内容の一部をさらに改善したいという著者の強い熱意によって版を改めることとなった。改版に至るまでの経過をみると、英霊の皆様が著者の渡辺氏を後押ししているように感じられることが再々であった。

 戦争で亡くなられた英霊の皆様の鎮魂を祈念すると共に、本書のような意義ある著作に関わらせていただいた著者の渡辺氏に深く感謝したい。

平成25年3月 永井久隆

 

 


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